横道と牧田がいるので俺の言動は遅かれ早かれ珠次に伝わるだろう。 　広い心で余裕を持った対応をするのが年上としてあるべき姿だ。 　 　俺は吉武の文句を聞き流し横道に呼びかける。 　ケンカは俺たちが落ちたことによって終わったらしい。 　転入生が暴れたせいで無駄に階段落ちコントをしたとか、転入生にネクタイを引っ張られて唇が合わさったとか事実を語るのは簡単だが、転入してきたばかりの人間の立場を落とすのはよくない。 　これからのことを考えれば今の一連の出来事は、なかったとするのが一番だろう。 　そんな悪い奴ではないから面倒をみてくれと横道に告げて俺は生徒会室に戻った。 　俺が転入生を責めれば学園が転入生に対して批判的になる。 　かといって転入生とキスしたことを喜ぶような人種として周りから見られていない。 　多少、生徒の間で動揺が広がってもすぐに消える。 　俺には珠次がいて生徒たちはみんな俺たちが付き合っていることを知っている。 　誰も俺が転入生とどうにかなるなんて思わないだろう。 　スマートに行動できたと満足して生徒会室のソファに座っていると副会長に服の乱れを指摘された。 　転入生に掴まれて皺の寄ったネクタイといつの間にかボタンの取れたブレザーとワイシャツ。 　頼めば珠次がボタンをつけてくれると思ったので副会長に自慢として伝えると「便利なセフレですね」と返された。 　失礼すぎるという抗議は「きみたち、あんまりにもお互いが好きだっていう姿が見えないんですよ。恋人じゃなくて性欲処理のために付き合ってる打算的な関係だってほうが、よほどしっくりくる」と言われてしまったことで吐きだせなくなった。 　あまりのことに絶句した。 　俺と珠次が打算的な関係だなんて思ったことはない。 　一度として俺は珠次に打算を感じていない。 　俺といることにメリットが見い出せないぐらいだ。 　何もいいことがないのに俺のために行動してくれる。 　好きでいてくれるからこそだと思っていた。 　俺が珠次を求めて受け入れてくれるのは好きだからこそ。 　そうじゃなかったら触れられたいとは思わないはずだ。 　珠次は外部進学組で内部進学の生徒ほど同性愛を身近に感じていない。 　それなのに俺を受け入れてくれた。 　触れることを許されていることが愛じゃないわけがない。 　 　情緒不安定になっていない俺は珠次の愛を疑ったりしない。 　愛してくれているからこそ珠次が部屋で夕飯を作って俺の帰りを待っていてくれていると信じられる。 　 　副会長は何故か吉武の名前を上げて珠次よりも恋愛していると言い出した。 　噛み合わなさに首をかしげるしかない。 　吉武と恋愛したことは一度もない。 　そこで俺は見過ごしていたものを思い出した。