吉武と珠次の共通点をあえて挙げるなら食事を残さず食べるぐらいだ。 　あとは台所をきれいに使う。 　兄とその親友が思いつきで料理やお菓子を作り始めると大体が出しっぱなしでやりっぱなしだが、吉武と珠次はきちんと片している。 　珠次はときどき冷蔵庫の上や戸棚のホコリを掃除機で吸ったり、ふき掃除をしている。 　ソファで寝ているのが好きそうな珠次だが、掃除はちゃんとしている。 　同室者である牧田情報によると珠次の母親が神経質な潔癖なのに掃除ができない人間だから気づいた時にやる癖がついているらしい。自分で動かないのに神経質な潔癖だなんて面倒な母親だ。 　 　ゆったりしているようで珠次はテキパキ動く。 　吉武には主体性がないように見えたとしても珠次は一本筋が通っている。 　人の意見に流されないのが珠次だ。 　 　俺が食べきれないと思った料理は珠次が食べてさっさと食器を片付けている。 　珠次が特別食べる量が多いとか食べるのが早いわけではない。 　けれど大皿に残った料理を最後に回収するのはいつも珠次だ。 　俺が珠次のために残しているのではない。 　見ていて俺が手を付けないと判断したら珠次が自分が食べる。 　これは何か前置きや約束があるわけじゃない。気づいた時にはそうなっていた。 　食べきれないと判断したら小さな皿によそってラップして冷蔵庫に入れる。 　その時々で違うのではなく一番初めにご飯を作ってもらった時から珠次の行動は変わらない。 　 　生徒会長の部屋には冷凍室や野菜室のついた冷蔵庫がある。 　 　一般生徒の部屋には野菜室と冷凍室のないタイプの冷蔵庫が全室ではなく三分の一がついている。 　冷蔵庫がない部屋に当たった生徒は冷蔵庫がある友人や隣近所に借りるのが習わしだ。 　ある程度の不便さがあることで生徒間で会話が増えるということが狙いらしい。 　部屋に冷蔵庫がなかったらないで冷たいものは飲みたい時に自販機で買うだけだという話もある。 　ちなみに冷蔵庫がない部屋には洗濯機かテレビがある。 　生徒会役員になると冷蔵庫と洗濯機とテレビがあるということになっているが、先代たちがカスタマイズしていくので生徒会長の部屋にある家電は一定しない。 　 　珠次のことが独特だと思うのはリスク計算の仕方だ。 　 　出不精なのか珠次は食堂に行くのが面倒に感じるらしい。 　同じようなことを吉武も言っていた。 　だから中学の時に買ったものを俺の部屋に持ち込んで吉武と一緒に食べていた。 　買ってきたんだから礼を言えと強要してくる吉武は気の迷いとはいえ俺を好きだったようには思えない。 　ともかく苦ではないと思うことを人はする。 　 　珠次は放課後にコンビニに立ち寄って俺の部屋に合鍵で入って夕飯を作っていてくれる。 　負担をかけていないのか最初のころは気になっていた。 　でも、珠次は面倒なら態度に出すだろう。 　何も言わないということは大変だと思っていないからだ。