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恋人はハッキリ言うのが好き1-3

 主体性がないなんて思わない。  珠次に気をつかって食堂で食べることを提案したら一人で食べるように言われたことがある。  部屋で俺を待って食堂に行ったり食堂で待ち合わせるよりも自分が夕飯を作るのが珠次にとっては労力が少ない。  そういう感じ方は独特だと思う。    いつでも俺が帰ってきたらすぐに食事が出来るようになっていた。  自分のことながら思い返すと良い身分だ。    親衛隊とゲームをして帰りが遅くなっても珠次は待っていてくれた。  一人で食事をすると洗い物が別々になるので面倒だと思ったのかもしれない。  これは俺と一緒に食べたいからこそ待っていてくれたと思うべきだろう。  ゲームで神経をすり減らして珠次に欲情しないための行動だという主張はできない。  俺の行動が珠次のためだとは言えない。  珠次に嫌われたくない俺が自分のためにした行動だ。    珠次に好かれるか嫌われるかは俺にとっては大問題だが珠次自身からすれば、それは問題にはならないかもしれない。    珠次の感じ方は特殊だ。  それを分かった上で俺たちは会話をしてこなかった。  なんとなくで伝わる形で満足していた。    付き合っているから、好きだから、珠次は俺に食事を作ってくれたんだろうと一人で夕飯を食べながら思った。    副会長が俺と珠次をセフレだと指摘したのは親しき仲にあるべき礼儀を忘れているように見えたからかもしれない。  何もかもを語らなければならないと思わないし、何もかもを語れるほどの言葉も持てない。  兄が消えた謎に対する恐怖心は言葉にならない。  不安感は未だに明確な形にならないがくすぶり続けている。     「言い続けたら本当になる。だから、西宮と会長は別れる。そうだろ?」      一点の曇りのない瞳で転入生がそう言ってくる。  非合法な薬物でも摂取しているんだろうか。  あるいは海外で合法だったせいで国内で手を出すと逮捕されてしまうものに体を蝕まれているのか。  俺の何が気に入ったのか知らないが珠次と別れて自分と付き合うべきだと主張してきた。   「言い続けたら本当になるか、なるほど。だから、この学園の人間はみんな嘘を本当のように語るんだな……」 「珠次? 心当たりがあるのか?」 「たとえば笹峰明頼生徒会長は毎日親衛隊の人たちと空き教室でエッチをしている」 「してないしてないしてないしてない」  ビックリして首を横に振る俺に珠次はわかっていると言うようにうなずいてくれた。  転入生は「そんなに慌ててあやしい。浮気してたんだ!」と言い出した。冗談じゃない。  珠次に疑われたらどうしようかと思っていたら転入生の言葉を無視して「浮気はない」と口にした。   「浮気はしてないって以前言っていました。今エッチもしてないと聞きました」 「根拠のない噂が出回ってるだけだ」 「空き教室で親衛隊の人たちと居たのは事実ですよね? 親衛隊長のセンパイも言っていました」 「あぁ、休み時間や放課後にちょっと」    答えてから噂といえば珠次に関するものもある。  俺の浮気について親衛隊長が問いただしても気にしたところがないという。  浮気されても気にしないのは好きじゃないからだと吉武が力説していた。  好きなら浮気されたくない。それはその通りだ。  俺は珠次に浮気をされたくない。誤解だとしてもそんな噂は耳に入れたくない。  珠次はどうして平気でいられるんだろう。   「何をしていたのか、言えます?」 「囲碁とか将棋」 「夢中になっちゃったんですね」    部屋に囲碁や将棋に関する本はいくつかある。  休みの日にプロ棋士対人工知能なんていうのをパソコンの動画で数時間ぶっ続けで見ているので珠次も納得がいったようだ。  誤解が解けて和やかな俺たちの間に転入生が割り込んできた。   「なんで、そんな言葉で信じて納得してんだよ。西宮っておかしいっ」 「……嘘ですか?」 「いや、本当のことしか言ってない」 「浮気男のその場の誤魔化しだろ! 浮気をしてるやつが浮気を簡単に認めるわけない!!」    なぜか断言してくる転入生は吉武と似ているのかもしれない。  自分の考えが正しくて他の考えを持つ人間を否定する。  別の視点、別の受け取り方をする人を物事の本質を理解できないと見下す。  俺はそういう感覚の人間が苦手だ。  だから、いくら言い続けたところで転入生と俺が付き合うことにはならない。  願って祈って望んでいれば叶うなら俺の兄とその親友は目の前にいてくれるはずだ。  

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