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会長と俺に会話は必要ないらしい?1-2

「いろいろとごめんな。幼なじみが迷惑をかけてて。全然知らなかった」 「元彼からデスられてますよって早く言うべきでした?」 「元彼部分は否定したいが、俺をこきおろすのは吉武のクセみたいなもんだからなぁ」 「幼なじみ特権ですか」 「ツッコミが四人の中で吉武しか居なかったからそうなのかもしれない」 「お兄さんと忘れられない思い人さん?」 「兄の親友は忘れられないが、恋愛的な目では見てない。兄の親友は兄の親友だから。俺の遊び相手になってくれたわけでもないし……無視されたわけでもないけどな。親友の弟として構ってもらってただけで、それ以上の関係じゃない」    子供のころを思い返すような言い方に違和感を覚えていると「二人が行方不明になってそろそろ七年になる」と教えられた。吉武センパイのいつまでもこだわるのがおかしいという論調の理由がすこし分かった。    笹峰明頼にとって終わってない事件でも吉武センパイには過去のことだ。  だから、笹峰明頼に対して吉武センパイが辛辣なのかもしれない。  前を向いて歩くことが正しいと思う人は過去を振り返り引きずる人を歯がゆく思うんだろう。    俺が学校から帰った時に母と母の学生時代のライバルだったという人が家の中で言い争っていたことがある。  母の才能を評価して海外に行って勉強をし直そうという提案を一生懸命していた。  その人が母のことを買っているからこその言葉でも母には不要なものだった。  母が音楽をやめるに至った出来事をさして「たいしたことではない」と言っていたその人を俺はとても無神経だと思った。  その人にとってたいしたことではないことが母には大問題だったんだろう。  母の中ではまだ終わっていないからこそ動きだせずにいる。本人じゃないから分からないとしても踏み込み過ぎだ。    笹峰明頼と吉武センパイに対しても同じものを感じる。  決着をつけてしまった人と未だに消化しきれていない人では話が合うわけがない。  無理矢理に自分側に引き寄せようとしても軋轢を生むだけだ。    母のライバルを自称する人のせいで俺の家はリビングのソファやテレビを買い替えることになった。  笹峰明頼は気持ちを落ち着かせるために物を破壊するわけじゃなく俺を抱くのかもしれない。  それは安上がりだし母に比べたらとても平和だ。    母も笹峰明頼も自分が感情を落ち着けるために起こした行動がよくないことだという自覚がある。  だから、俺は責める気はない。  わかっていてもやってしまうことがある。それは仕方ない。   「珠次が持ってたバイブは俺への誕生日プレゼント」 「洒落たセンスの方ですね、お兄さん」 「冗談で作って渡すのは俺の年齢的に早いと思ったのか何かを買おうと思って出かけて帰ってこなくなった」 「……勝手に持ち出してすみません」 「いや、自分で使うか好きな相手に使うようにってメモがあったし……電池入れて準備しちゃってたし……」    俺の手をにぎにぎと握るというか揉んでくる笹峰明頼。  気まずいというか照れているんだろう。    俺がカバンに入れて持ち歩いていたのはアーティスティックなモノクロのバイブだ。  カラフルな細いものもある。    エッチの最中、笹峰明頼の性器が入っているにもかかわらず更に指を追加してくることがある。  これはもしかしてバイブを追加したいんだろうかと俺なりに察してみた。  笹峰明頼の性器とバイブの二輪挿し。  不可能だと思って隠す意味で俺は自分のカバンに入れた。  けれど、浮気の噂と同時に笹峰明頼の帰宅が遅かったりエッチの回数が減ったのでもやもやムラムラしたりして使ってみた。わりと気持ちよかった。  モノクロな見た目はパンダを連想して結構かわいいので愛着があったから笹峰明頼と別れても返したくないと思っていた。行方不明のお兄さんの物だと聞いたら俺が持っているわけにもいかない。    放り出してベッドのふちに追いやられたカバンを蹴り上げる。  カバンが笹峰明頼の顔面に落下するのを見て足で持ち上げて引き寄せれば良かったと思った。  思わず「にゃーん」と謝罪のためにこぼれた声に大丈夫という響きで「べあー」と返ってきた。  十割相手が悪くても責めようとしない笹峰明頼はやっぱりとてもすごい人だと感じる。  愛しさから唇に唇で触れてみた。  くすぐったい気持ちに落ち着かなくなった。  いつも通りの首へのキスの方が好きかもしれない。

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