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第5話 ぜんぶ初めての夜

 蒼汰に言わせれば、「こんな日に空室があること自体が奇跡」なのだそうだ。俺はもちろん初めてだから、そんな常識知る訳がない。 「な、何かすごい。豪華な部屋なんだな。……わ、でかいベッド。こんなの初めてだ」  ベッドは大きく、壁の装飾も煌びやかで、テレビにDVDにゲームまである。冷蔵庫にはジュースや酒が入っているし、有線も聴き放題だ。 「喜んでるところ悪いけど、これを豪華とか人前であんまり言うなよ」 「え、充分豪華だと思うけど。スイートルームって言うんだっけ、お城みたいだし」 「……まあいいか。風呂沸かすけど、翼くん一緒に入るか?」 「い、いいよ。一人で……」 「アツアツの泡風呂にして遊ぼうぜ。楽しいぞ」  興味をそそられて風呂場について行くと、浴槽近くに見慣れない装置が並んでいた。照明の色を変えたり、ジェットバスになったりするらしい。それだけでわくわくしてきて、俺は浴槽に湯を溜める蒼汰の背後で落ち着きなく動き回った。 いい匂いのする入浴剤、泡風呂の素、シャンプーにボディソープもちゃんとある。目に映るもの全てが面白くて、まるでちょっとした旅行をしている気分になった。 「お、泡立ってきた」 「すごい。俺本当に泡風呂なんて初めて」 「入るともっとすごいぞ」  蒼汰がシャツを脱ぎ、脱衣所に放る。俺もぎこちなく服を脱ぎ、ベルトを外してジーンズを下ろした。蒼汰の前で裸になるのは恥ずかしいが、やはり男同士ということが根っこにあるからか、そこまでの抵抗はない。それに、どうせ湯船に入ってしまえば泡で何も見えなくなるのだ。 一応は前を隠し、蒼汰に背を向けて泡風呂の中へと身を沈める。 泡の弾ける音と、フルーツのような爽やかで甘い匂い。全身を包み込むお湯の心地好さ、ゆったりとした広いバスタブ。俺は心の底から溜息をつき、至福のひと時に頬を弛ませた。 「気持ちいいか? 翼、もう少し詰めてくれ」  俺のすぐ後ろで、蒼汰が体をうんと伸ばす。左右の浴槽縁に両腕と両脚を投げ出し、風呂の中で遠慮なく寛いでいる恰好だ。俺の腰の辺りにそれが当たっていてもまるで気にしていない。いかにも「慣れている」感じだった。 「泡風呂の素、一袋残ってるから持って帰れば。武虎が喜ぶんじゃねえの」 「名案だけど、ラブホテルの備品を子供に使わせるのってどうなんだろ。……道徳的に」 「俺はガキの頃、母親が持ち帰ったラブホの備品を躊躇なく使ってたけどな」 「え」 「俺の母親、風俗嬢だったからよ。ピンサロから始まってハコヘル、デリヘル、そんで最終的にはソープか。ちなみに父親は誰か分からねえ」  唐突に言われ、返答に困る。俺は泡の中に口元を埋めて膝を抱えた。 「金曜の夜は母親の常連が家に来るから、俺は五百円玉だけ持たされて、ファミレスで何時間も時間潰してよ。つい早く帰っちゃった時なんかは、押入れで寝たっけな。母親との思い出は殆どねえけど、これだけは覚えてるんだ。あの頃の俺は何よりも金曜日が嫌いだったわ」 「……蒼汰」 「でも今は金曜が一番好きだぜ。武虎にも会えるし、翼とも会える」  ずるい奴だ。そんな話をされたら、湯船の中で腰に回された腕を振り払うことができなくなるじゃないか。 「翼、いい匂いがするな」  うなじに蒼汰の息がかかる。 「泡の匂いだろ……」 「こっち向けよ」  視界が涙で潤んでいるのは、恥ずかしさと、余裕がないのと、緊張と期待のせいだ。  振り向くまでもなく蒼汰の手が俺の顎を捉え、ぐるりと後ろを向かされた。 「あ……」 前髪の先から滴る雫。湯気に濡れた瞳。熱い息遣い、……鼓動。 動揺する俺を見て可笑しそうに唇を弛めながら、蒼汰がゆっくりと距離を縮めてきた。 「蒼、……」 触れた唇は温かかった。差し込まれた舌は更に熱く、濡れていた。頭の芯まで蕩かすような蒼汰の舌と唇は、俺の体をも熱くさせてゆく。 「ん、う……。んあ、蒼汰、……」  声が漏れてしまうのは、蒼汰の手が後ろから俺を弄るせいだ。狭いバスタブの中では逃げ場なんてどこにもない。 それでも蒼汰はまるで俺を逃がさまいとするかのように、腹と胸をしっかりと押さえ込んでいる。泡で見えないお湯の中、その手はどこか卑猥な動きでますます俺を熱くさせた。 「乳首、固くなってる」 「さ、触るから、ぁ……」  唾液の糸を引いて離れた唇。蒼汰は俺の首筋から肩へと舌を這わせながら、執拗に胸元と下腹部の辺りを撫で回している。恥ずかしいのに心地好く、初めての経験なのに気持ちが昂ぶって止まらない。 「ん、く、……あぁっ」  うなじを舐め上げられた瞬間、自分でも驚くほど体がビクついた。蒼汰の舌と息は燃えるように熱いのに、どうしてこんなに震えてしまうのだろう。 「も、もういい……から、触るな、蒼汰っ……」 「まだ殆ど触ってねえんだけどね」 「だって、もう……頭くらくらする」  噎せ返るような甘い香りと湯気とが混ざり合い、視界は霞みがかかったようにぼやけている。  ようやく蒼汰が俺を解放し、浴槽縁に腰を下ろして濡れた髪を両手でかき上げた。上腕や鎖骨の辺りを柔らかな泡が滑り落ちて行く。割れた腹筋、引き締まった脚、少し赤みを帯びた頬と、半開きの唇から洩れる吐息――。悔しいが、思わず見入ってしまうほどに色っぽかった。 「俺もちょっとのぼせそう。こういうの、だいぶ久し振りだからな」 「……そっちは久し振りでも、俺は初めてだし」 「立てるか、翼」  蒼汰がシャワーの栓をひねり、手で温度を確認してから俺の肩に浴びせた。少し温いくらいの水が火照った肌に気持ち良い。だけど依然として反応したままの下半身を見られたくなくて、俺は湯船から立ち上がることができない。 「熱いだろ、そこから出て少し体を冷ませよ」 「だ、だって蒼汰、見るだろ」 「え? ああ、……そりゃあ見るけど、別に、気にしないようにするから」  よく分からない説得をされ、俺は渋々前屈みになった状態で立ち上がった。蒼汰に体の泡を流してもらい、ついでに背中を手で洗ってもらう。 「いつも家のことやって疲れてんだろ。背中流してもらうのも初めてなんじゃねえの」 「ん。……でもそれは蒼汰も同じだろ」 「俺はそこまで疲れてねえから。今日は翼に手伝ってもらった分、ちゃんと奉仕してやる」 「そ、そんなの別にっ……あ!」  油断していたら急に腰を絡め取られ、そのまま正面を向かされた。抱き寄せられた胸元に蒼汰の唇が寄せられる。俺の反応を楽しむように、上目に見つめられながら―― 「うわっ、あ、やめっ……」  熱くなった乳首に唇が被せられ、ゆっくりと舌で転がされる。びりびりとした刺激が胸から背中に伝わり、背中から腰に行き渡り、不規則な痙攣となって溢れて行く。 「や、あっ……。い、いから……そんなっ……」  音を立てて乳首を吸われ、恥ずかしさと耐え難い刺激に涙が滲む。仰け反らせた背中は蒼汰がしっかりと支えていて、身を捩っても逃れることはできない。風呂場の壁に俺の声が反響するばかりだ。 何だか、どうしようもなく淫らな気分になってくる。 「そう、……そうた、気持ち、いっ……あぁっ」  乳首への愛撫はそのまま、蒼汰が俺の昂ぶった部分へとシャワーをあてがってくる。腰が痙攣し、膝が震えて、立っているのもやっとの状態だ。 「それ、やめっ……ろ、何かヤバいって、ぇ……!」 思わず蒼汰の肩を強く掴む。それでも微かに口元が笑っているから、蒼汰はきっと俺の反応を心底楽しんでいるのだろう。 水流の激しい振動に、意識しなくても涙が頬を伝ってゆく。 「や、ぁっ……! もう、どっちかにしろってば……!」 「どっちがいいんだか。言ってみろ、翼くん」 「そ、そんなの、言えないっ……」  俺は片手で目元を拭い、もう片方の腕で蒼汰に抱き付いた。今更ではあるけれど、羞恥に赤くなった顔を見られたくなかったからだ。 「仕方ねえな」  シャワーを止めた蒼汰が、俺の背中を優しく撫でる。 「無理にでも吐かせてやる」  全身濡れたまま浴室を出た俺達は、唇を重ね合い、もつれるようにしてベッドへと倒れ込んだ。 こんなの嘘みたいだ。経験なんて一つもないのに、まるでこうすることが一番良いんだと本能で分かっているような――そんな不思議な感情に、体だけでなく頭の中までもが熱くなってくる。 「っあ、あ……。蒼汰……」  声だって、表情だって。誰に習った訳でもないのに、自然とこの場に一番相応しいものが出てしまう。蒼汰が俺の肌に唇を押し付ける度に、舌を這わせ、歯を立てる度に、どうしようもなく扇情的な気分になってくる。  どうしようもない――本当に、それに尽きると思った。セックスに慣れていても初めてでも、こればかりはどうしようもない。好意を持つ相手との快楽の前で、自分を抑えるなんて到底無理なことなんだ。 「んっ、ぁ……。あぁっ、あ――」 「いい声出すようになったな」  俺の胸元から顔を上げ、蒼汰が薄く笑う。 「公園で会った時とは大違いだ」 「そ、れは……蒼汰だって」  妖艶に笑うその顔はあの時と同じなのに。していることも、あの時と同じようなことなのに。それでも今は蒼汰に対する恐怖や不安がないためか、俺はほんの少しだけ余裕を持って蒼汰に言うことができた。 「……公園の時と同じ男だって思えないくらい、いい奴だと思うよ」 「……俺のこと、信じてくれてるってことか。抱かれてもいいくらいにはよ」 「んぅ、やっ、あ……!」  俺のそれを握った蒼汰の手が、激しく前後する。卑猥な音をたてて擦られる。耳に感じる蒼汰の息遣いは荒く、声は低く、熱かった。 「本当にいいのかよ。前みたいに途中で止めてやれねえんだぜ」 「あぁ、っ……、蒼汰、やっ……!」  俺を横に寝かせた状態で、蒼汰が背後から指を突き立ててくる。 「翼の狭いここに」  そうしながら、もう片方の手は俺の猛ったそれを握ったままだ。 「俺の勃起したやつをさ、……何度も出したり突っ込んだりして、最後には翼の中で射精する」 「あ、う……。やめろ、そういうの卑怯だろっ……」 「そういうのって?」 「そ、そんな耳元で、エッチなこと言うなってば……!」  蒼汰が噴き出し、俺を背後から強く抱きしめてきた。 「翼くん可愛い。家事もできるし、お嫁さんに貰ってやる」 「馬鹿なこと言うなって……」  内心ドキドキしていたが、顔を見られていないから動揺もバレていないだろう。  可愛いなんて言われたのは子供の頃以来だし、嫁に貰うなんて言われたのはもちろん初めてだ。  だけどまだ、一番言いたいことと言ってもらいたいことは、互いの口から出ていない。 「蒼汰」 「うん?」  ――好き、とか。付き合おう、とか。  今どき馬鹿げているかもしれないが、実際、俺にとっては重要だったりする。何しろ初めての経験なのだ。男とセックスをするより以前に、こういう色恋そのものが。  だから、この場限りでもいいから好きだと言ってもらいたかった。そんな漠然とした少女漫画のような恋愛に、ずっと憧れていた。 「蒼汰は、その……どういう奴がタイプなの」 「それ、今聞くか?」 「だ、だから。今まで蒼汰の相手をしてた男達は、俺と違ってこういうの慣れてるだろ。でも俺は初めてで、勝手も何も分からなくて、全部蒼汰に任せるしかないんだ」 「まあな」 「初めての男を相手にするのって、蒼汰的にどうなのかなって……。今まで相手してきた男とは、違う?」 「そりゃあ、違うよ」  俺は体を反転させ、蒼汰に向き合って言った。 「やっぱ面倒臭いって思ってる? 往生際が悪いとか、前置きが長すぎるとか、思ってる?」  不安で必死になってしまう俺を見て、蒼汰はしばし呆然としていた。だけどやがてその顔に堪え切れなくなった笑みが浮かび、ついに俺から視線を逸らして「ぶはっ」と噴き出す。 「な、何で笑う。お前、何笑ってんの!」 「悪い。だって翼くん、すげえ武虎にそっくりだったからよ」 「え? た、武虎?」 「必死になった時の喋り方とか、問いかけ方とかさ。困ったように目見開いて相手をじっと見つめながら捲し立てるの、武虎の癖だろ。いやいや、なるほど。元々は翼くんの癖だったんだな」  恥ずかしくて口を噤むと、蒼汰が目元を拭いながら尚も笑った。 「変なことで心配するなよ。俺は翼と他の奴らを比べようなんて、これっぽっちも思ってねえんだからさ」 「でも俺は、……」 「好きだぜ、翼」 「っ……」  距離を詰めてきた蒼汰が、俺の唇に軽くキスをした。 「これで安心したか」 「……し、したかも」  寝たままの体勢でキスをすれば、自然と二人とも相手に手が伸びる。抱き合えば体が触れ合うし、体が触れ合えばもう、…… 「んっ、……あ、あぁっ……」 「……翼、……」  肌を這う唇、熱くて蕩けそうな吐息、柔らかな筋肉とその温もり。さっきまでの焦りが嘘のように、俺は蒼汰を深く求め始めていた。 「気持ちいい?」 「ん、……いい……。気持ち、い……。じんじんするっ……」 「俺もすげえじんじんする、痛いくらい」  舌先が絡み合うと同時に、視線と吐息までもが絡み合う。「それ」は互いに握り合った「その部分」に感じる「それ」よりも刺激的で、情熱的で、エロティックだった。 「翼、力抜け」  その言葉にドキッとして、俺はきつく唇を噛みしめた。蒼汰の指が俺のモノから離れ、更に奥へと潜り込んでくる。 「んっ、……」 俺の体液でべとついた指は、意外とすんなり中へ収まってしまった。だけどそれはあくまでも指だけ、だ。 「蒼汰……変な感じ、する……」  大きく開いた内股が痙攣し、仰け反らせた背中に痛みが走る。蒼汰の指は俺の奥深くに侵入し、更にその奥までをも探るかのように蠢いている。肌が粟立つようなぞくぞくとした感覚に、俺は堪らず悲鳴をあげた。 「いっ、あ……あぁっ! 蒼汰っ、や……!」 「痛てえか。ごめんな、もう少しだけ我慢」 「ん、――あっ、あぁっ」  散々俺の中を弄った後で、蒼汰がぬるついた中指を抜いた。 「う、ぁ、あ……」 「今日は指だけにしとくか?」  かぶりを振って蒼汰にしがみつき、涙混じりに訴える。 「い、れて……いい。蒼汰、俺……挿れて、欲し……」 「翼」 「多分、俺、蒼汰じゃなきゃ無理だ……」  体に触れていた蒼汰のそれが、俺の訴えにビクリと反応する。なのに蒼汰は少し困ったような笑みで、俺の顔を真上から覗き込んできた。 「痛いかもしれねえぞ?」 「それでも、い……」  抜いた指の代わりに再びあてがわれた蒼汰のそれは、さっきよりも硬くなっている。硬くて、熱くて、まるで同じ男と思えないくらいに雄々しくて、…… 「んっ、あ……!」 「力入れるな、楽にしろ」 「い、たぃ……より、……苦し……」  圧迫される息苦しさと体の中に異物が入ってくる恐怖。俺は喘ぎながら涙を拭い、必死に体の力を抜こうとして無様な深呼吸を繰り返した。  蒼汰が目元を拭う俺の手を引き剥がし、そっと甲にキスをする。 「翼、力抜け。力抜いて俺の顔を見ろ」 「あ、……」  潤んだ目で見上げた先には、蒼汰の穏やかな笑みがあった。それは武虎や子供達に向けられていた、あの頼もしくて優しげな笑みだ。 「初めて自分を抱く相手の顔はちゃんと見ておくモンだろ」 「蒼汰……。あっ……」 「……翼」  ベッドに肘をついた蒼汰が、至近距離で俺を見つめている。そうしながらゆっくりと腰を動かし、俺の中を緩やかに出入りしている。痛みが少ないのは先端までしか入っていないからだ。だけどそれが蒼汰の気遣いであることに気付くほどの余裕が、今の俺にはなかった。 「んあっ、あぁ、……やっ、あ」 「もう少し挿れるぞ」 「んっ――」  蒼汰の腰に力が入り、俺の体にも緊張が走る。蒼汰の腕を掴んだ指が肌に食い込み、蒼汰の眉間に皺が寄る。 「は、ぁっ……!」  多分この瞬間、俺と蒼汰は体と体で深く繋がったんだ。  俺は生まれて初めて、誰かとセックスをしたんだ――。 「う、あ……。やば……」 「な、何がやばいの……? あっ、うあ……」 「翼の中で、さ。先走りが止まんねえ。熱いし、キツ……」  その言葉に俺はもっと熱くなり、もっときつく蒼汰を締め付けてしまう。そうすれば蒼汰が更に苦悶の表情を浮かべ、俺を強く抱きしめて荒い呼吸を繰り返した。 「翼、……翼っ……」  何度も腰を打ち付けながら、蒼汰が苦しそうに俺の名前を呼ぶ。俺は全身で蒼汰にしがみつき、深い繋がりを体中で味わった。気持ち良い、よりは心地好い。まだ、それが快楽なのかは分からない。 「あっ、あぁ……蒼汰、……あぁ、っん……!」 「堪んねえ、……翼。辛くねえか」  入る前と比べたら、ただ強烈な異物感があるだけで耐えられないほど痛くはない。むしろ痛いのは、締め付けられている蒼汰の方ではないかと思う。 「――ん。んっ」  昔見た漫画か何かで、初めてのセックスの痛みを和らげるために、男が女にキスをすると良い、というような知識が書いてあったのをふいに思い出した。  だから俺は首を曲げて、覆い被さってくる蒼汰の頬に何度もキスをしたのだ。  それだけのことなのに。 「ちょ、翼っ、お前……何するっ、……」 「えっ? あ、……」  瞬間、俺の中で一際蒼汰のそれが質量を増した。 「あっ、あ……! あぁっ!」  繋がった部分がぶつかり合う音と蒼汰の息遣い、それからベッドの軋む音が、俺の喘ぐ声に重なる。俺は激しく貫かれながらシーツを握りしめ、背中をくねらせて体中で蒼汰を感じていた。 視界にも蒼汰しか映っていない。真剣な顔で俺を見つめる蒼汰の頬には汗が伝っている。何だか神々しさすら覚えるような光景だった。 「蒼汰……」  涙目になって見上げると、蒼汰が柔らかく笑って俺の下半身に手を触れた。熱く屹立したそれが握られ、根元から揉みしだくように擦られる。 「あぁっ、……!」  それから、体を倒した蒼汰の唇が俺の頬に押し付けられた。 「翼」  幾度となく繰り返されるキス。その唇と囁きは優しいのに、俺を擦る手の動きは限りなく激しい。腰が痙攣して涙が溢れ、俺はしがみつくように蒼汰の背中をかき抱いた。 「も、う無理……そうた、っ……イき、そ……」  ぞくぞくとした震えが足元から這い登り、腰から背中、後頭部へと突き抜けてゆく。 「俺も、そろそろ限界……」 「あ、あっ……イ、く……」  蒼汰の手と唇に促されるまま、俺は一気に快楽を吐き出した。数瞬遅れて、蒼汰が荒い息と共にぐったりと俺の体に覆い被さってくる。 「あ――」  心地好い虚脱感に包まれ、目の前が白く霞んでゆくようだ。俺は蒼汰を抱きしめたままで目を閉じ、ひと時の、だけどかけがえのない快楽の余韻に浸った。

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