14 / 28

第13話【取引(後編) *】

 触れられる距離に、椎葉の首がある。  真駒は涙を流しながら、自身を犯す椎葉を見上げた。 「く、首……首、もっと……ッ」 「近付けて欲しい? どうしたいの?」 「か、噛ませて……ください……ッ」  真駒が椎葉に犯されているのは、取引だからだ。真駒の体を椎葉が好きに虐める代わりに、真駒は椎葉の首を好きにする権利が与えられる。それが、椎葉が提案した取引だった。  椎葉は意地悪く口角を上げたまま、真駒の口元に首筋を寄せる。  真駒は近付けられた椎葉の首に、舌を這わせた。 「は……ふぁ、ん……っ」 「あはっ。くすぐったいよ?」 「あ……ッ!」  この取引は、どう見たって真駒が不利だ。  椎葉は真駒の体全てを好きにできるのに、真駒が好きにできるのは首だけ。椎葉の首に舌を這わせただけで、真駒は逸物で奥を穿たれ、痛めつけられる。  不毛な取引だと、真駒は分かっていた。  ――それでも、真駒にとっては幸せなのだ。 「課長……かちょぉ……っ! もっと、首……近くにぃ……ッ」  受け入れられたとは到底言えない状況だけれど、夢にまで見ていた椎葉の美しい首を好きにできる。自分さえ犠牲にすれば真駒は首を絞めることもできるし、引っ掻くことも舌を這わせることもできるのだ。そういう権利を得られる、取引なのだから。  ――真駒は、それだけで満足なのだ。  椎葉の腰遣いがより一層激しいものとなるも、真駒は苦痛による涙を流しながら、寄せられた椎葉の首を必死に舐めた。 「ん、ぅ……ッ! は、あっ、あッ!」 「そろそろ、ナカに出すよ……っ」 「あ、ふぁ……ふ、あぁ……んぅッ!」  椎葉の熱が、内側に注がれる。その感覚に、真駒は眉を寄せながら耐えるよう……椎葉の首筋に、噛み付いた。  遠慮容赦なく、内側に何度も椎葉の熱が吐き出される。嫌悪感を抱いてもおかしくないのに、真駒の逸物は何故か……触れもせずに射精していた。 (課長の首……凄い……っ)  汗ばんだ首筋はしょっぱく、しっとりとしている。きめ細かい肌は、今まで口にしたどんな食べ物よりもクセになる歯触り。真駒が射精するのには十分すぎる程、椎葉の首は魅力的だった。  お互いに熱を吐き出し、肩で息をする。そんな中、先に口を開いたのは椎葉だった。 「痛いなぁ……これから、仕事なのに」  痛いのは、真駒だって同じだ。真駒がそう言ったところで、椎葉が素直に謝るとは思えないが……真駒は悲しげに眉を寄せる。  そんな真駒を見て、椎葉は満足そうに笑っていた。 「取引、どうだった?」  逸物を引き抜かれ、真駒は体を小さく震わせる。下半身の痛烈な痛みに、真駒は返事を迷った。  椎葉の首を好き勝手できるのは、美点だ。何にも代えがたい。  けれど、真駒は決して痛め付けられることが好きなわけではない。痛いことは嫌いだ。  ――それでも、迷いは一瞬にして晴れる。 「……続け、たい……です……っ」  不毛な関係になると分かっていながら、真駒は呟く。  その唇に、椎葉の唇が重ねられた。

ともだちにシェアしよう!