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第16話【確信(前編)】
もしも、椎葉が本坂を本当に好きだとしたら……この取引は、どうなってしまうのか。
――決まっている。
――終わりだ。
真駒は朝からずっと、同じことを自問自答し続けている。
真駒は、椎葉の首が好き……触れることを許され、思う存分堪能できているこの関係が終わってしまうのは、嫌だった。
けれど、椎葉はどうなのか。真駒には、それが分からなかった。
椎葉は、真駒の泣き顔を好きだと言う。それは【真駒】だから好きなのか……それとも【泣き顔】だから好きなのか。真駒には判断が付かなかった。
いつもなら急いでやらなくてはいけないことがあるわけではないけれど、帰宅ラッシュを避ける為に続けているサービス残業。それが今日は仕事に集中できず、自分自身で残業を余儀無くしてしまった。
真駒はデータの打ち込みに区切りを付けると、椅子の背もたれに体重を預け……天井を見上げながら、溜め息を吐く。
(課長の首……痛そうだったな……)
遠慮容赦無く犯されるものだから、真駒も自身の欲求を抑えられず椎葉を傷付けていた自覚はあったが……第三者に指摘されると、尚更痛感してしまう。
どれだけ傷付いても、どれだけ汚れてしまっても……真駒にとって、椎葉の首は特別だ。きっと、どれだけ触っても飽きたりしないのだろう。
――けれど、椎葉にとっての泣き顔は?
(駄目だ……また、同じこと考えてる……)
今日の真駒は自分でも気付いているくらいには、変だ。
同僚から聞かされた噂話……真駒にとって関係無い話のようだけれど、気にしてしまっているらしい。
もしも、椎葉が本坂の泣き顔を見たくなったら……自分の首を犠牲にしなくても見たいものが見られるようになったなら……真駒は、不要だ。
背もたれによしかかったまま、椎葉のデスクに視線を向ける。
(課長……っ)
視線はそのまま、真駒は自身の首元へと……手を伸ばす。
巻かれた包帯を乱暴に剥ぎ取ると、真駒は力任せに自身の首を掻きむしる。
(痛い……っ)
首を引っ掻けば、当然痛い。ヌルヌルとした血の感触は、嫌いだ。
不意に、真駒の視界が歪む。
「し、椎葉……課長……っ」
零れるように呟いた名前が、更に真駒の胸を締め付ける。それでも真駒は、自身の首を掻きむしることを止めなかった。
意地悪く歪む口元も、乱暴に突き挿れられる劣情も、真駒を罵る言葉も……それら全てが、苦しくて仕方なかった筈なのに。
――真駒はもう一度、椎葉に『好き』と言われたかった。
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