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第21話【告白(前編)】

 ハッキリとした口調に、椎葉が目を丸くして真駒を見下ろしている。真駒は真駒で、自分の発言に目を丸くしていた。  椎葉に向けて言い放った言葉を思い出し、真駒は瞬時に頬を朱に染める。 「い、や……あの……っ、すみません……っ」 「真駒君……今――」 「違っ、で、電話……急がないと、あのっ」 「そんなの、後で折り返せばいいよ」  椎葉の足が、耳まで赤くなった真駒に向かって踏み出された。それに気付いた真駒は慌てて立ち上がり、逃げるように後退する。  椎葉はそれでも、歩みを止めない。覚束ない足取りで後退する真駒の腕を掴み、突然……トイレの個室に引きずり込む。  椎葉は後ろ手に、個室の鍵を閉める。逃げ場を失った真駒は、椎葉の胸に手を当てて力任せに押し返した。けれど、椎葉の力に真駒が勝てる筈もない。 「ねぇ、何を止めたいの?」  至近距離で椎葉に見つめられ、真駒は思わず視線を逸らす。それでも、椎葉は決して真駒を解放しようとはしない。 「近い、です……っ」 「質問に答えて。君は、何を止めたいの?」 「そ、れは……っ」  言うチャンスは、今しか無い……真駒はそれに気付いている。  ただ、言ってしまったら終わってしまう。真駒にはどうしても、最後の一歩が踏み出せない。  相反する感情に押し潰され、真駒の両目からは……涙が溢れた。 「っ……ひ、ぅ……お、俺……っ」  今ここで泣いたって、椎葉を混乱させるだけだ。そうは分かっているのに、真駒の両目からはとめどなく、涙が溢れる。  突然泣き出した真駒を見下ろす椎葉の眉間に、皺が刻まれた。 「君は……僕の前で、いつも泣いているね」 「す、すみ……ま、せん……っ」 「いや、謝らなくていい。泣かせているのは僕だ。君のせいじゃない」  その声は、先程までの冷たい口調とはまるで違う。普段の、優しい椎葉の声だ。  椎葉は真駒の目元を、指で優しく拭う。その行為に、真駒は目を丸くした。 「か、課ちょ――」 「君の泣き顔に……堪らなく興奮するくせに、泣かないでほしいだなんて……実に、変な話だよね」 「ぅ、え……? 何――んんっ!」  突然、椎葉の顔が近寄る。  ――キスをされたのだと気付くと同時に、真駒はくぐもった声を漏らした。 「ん、んぅ……んっ」  荒々しくて、無理矢理だけど……優しい、キス。真駒は抵抗もできず、ただただ椎葉にされるがまま……吐息を漏らした。

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