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第13話

 ……なんて大人の余裕をかましてみたところで、物語とは違ってよくある朝チュンなんて展開にはならず、俺にとってまったくよくない恥ずかしい現実が待ち受けていた。 「ん、んんん……っ」 「卯月さん、声出してよ。この前は聞かせてくれたじゃん」  ローションをたっぷり垂らした後で探る指のなんとも言えぬ感覚に唇を噛む。  その行為が必要だということはわかっているし、痛い思いなんてしたくないから堪えるしかないのもわかっているけれど、ただひたすらに恥ずかしい。もっと勢いで流されてなんにも考えたくなかったのに、現実はそう甘くない。  こういう時だけ妙に冷静な日野は、ぐちゅぐちゅと濡れた音を響かせ慣らすように指を抜き差しさせる。マッサージするように丁寧にほぐして、指を増やして徐々に広げていくその時間が地獄のように羞恥を煽る。  いつもは心地よく寝られる俺のベッドなのに、その上で俺はひたすら口を塞いで枕を握って身悶えるしかない。 「あッ……!? あ、ああ……」 「ここいじられんの気持ちいいって言ってた」  俺があまりにも頑なに口を閉じていたからか、日野の指の動きが擦るように変わった途端、強張っていた体からみるみる力が抜けていく。立っていたら膝から崩れ落ちていただろう、思わず声が漏れてしまう脱力。それと同時に萎えていた俺自身が芯を通していくのがわかった。直接触られていないのに、日野が中を刺激するのに合わせて見る間に元気になっていく。  その意思とは関係ない反応に思わず日野を見れば、少しほっとしたように笑んだのが見えた。なぜかその笑みがとてもかっこよく見えてしまい、イケメンはこれだから……とため息をつこうとして、取り出された日野のモノが目に入って青ざめた。 「え、待ってそれ……?」  引いた。  さすがに、ここまで臨戦態勢の野郎のモノを間近で見たことは初めてで、うっかりとドン引いてしまった。  なんでこいつこんなに俺で興奮してんの……?  立派に反り返ったソレは、俺と同じで特に触っていないはずなのに、すでにしっかり硬くなっていたらしい。むしろここまでくると凶器にしか見えない。  はやまった。早まった!  絶対に、俺はとんでもないミスをした。酔ってもいないのに雰囲気に流された。人間、やっていいことと悪いことがある。 「ちょっと待っ……!」  どう考えてもそんなもん入らないし入れちゃいけない。  慌てて止めようとする俺に覆いかぶさった日野は、熱い熱いキスで俺の制止を飲み込ませて……と、なんだかこれ同じ音で違う変換をするととても卑猥な意味になるんじゃないか?  なんてどうでもいいことに気を取られた一瞬を狙ったわけではないだろうけど、日野は何度も食いつくようなキスをしながら俺の脚を広げて抱え込んだ。なんとか止めようとしたって、この体勢じゃもはや手遅れだ。 「力抜いて。この前はちゃんと入ったから大丈夫」 「む、むり、それは……あ、ああ!」  慣らしていた指の代わりに宛がわれた、およそ人のものとは思えない硬さに身をすくめる。その強張りをほぐすように耳元で囁かれ、半泣きになって訴えたけど聞いてはもらえなかった。  強い圧迫感と違和感、そして少しの痛みと背筋を駆け上がる得も言われぬ感覚。  なにより圧倒的な恐怖を覚えて、俺は知らないうちに日野に縋りついていた。 「だいじょぶ、恐くないから」  どれだけ情けない状態なのか、日野が混乱する俺の耳元にキスとともに何度も吹き込みながらも遠慮なく腰を進めてくる。恐怖を与えている原因である日野に縋りついている自分はどうかと思うけれど、未知の体験すぎてどうしたらいいかわからないんだ。 「ん、良かった。体は俺のこと覚えてるみたい」 「は、ああ……んっあ」  ほっとしたようなその声と一緒に日野が一旦動きを止めて、大きく息を吐く。  日野の言葉の通り、俺の体はしっかりと日野の存在を覚えていたらしい。  戸惑う俺の意識とは別に、俺の体は当たり前のように日野を受け入れた。それどころかありえないところに異物が挿入されている苦しさよりも、ぴったりと収まっているゆえの物足りなさが腰を疼かせる。  一体全体どうしてしまったんだ俺の体は。本当に別人のように意識と切り離された反応ばかりしやがって。 「動くから、苦しかったら言って」 「あ、あっ、やっ、待って」  それなりに冷静なように見えて、どうやら日野もあまり余裕はないようだ。  一旦待ってくれという俺の言葉を耳に入れず、動きやすいように態勢を変え。 「ひあっ、あ、あ!」  抜けそうなくらいの勢いで腰を引かれその感覚に息を飲んだ次の瞬間、ずんっと奥まで一気に突き立てられた。そのあまりの衝撃に固まった体を速いテンポで突き上げられ、押し出されるように声が漏れる。 「カワイイ声」  上げたくもない声を上げさせる原因がなにか言っている……。  まるで舌なめずりでもしてるかのようなやらしい反応をされて、口を閉じたいのにどうしても声が出てしまうのが悔しい。  本来なら一度と言わず二度も経験しているはずなのに、ちっとも記憶になくて、そのくせ体は素直に日野の与える乱暴なくらいの刺激を快感として受け取ってしまうからタチが悪い。 「んんっ、あ、ん、むり、あっ、そんなの、むりっ」 「こういう時、は、『無理』じゃなくて、『いい』って言うんだよ」  いけ好かない大学生に、完全に手玉に取られている。  気持ちがついていかない気持ちよさに、神経が焼き切れそうで、自分がなにを口走っているのかもう耳に入ってこない。 「素直な卯月さんは可愛いけど、素直じゃない卯月さんはエロい。……どっちも大好物」  耳に入ってくるのは日野の声と、日野が与える音だけ。 「あ、あっ……んっ! ん、あっ、う、や、もう……っ」  気持ちよくて恥ずかしくて気持ちよすぎて自分の体なのに自分じゃないみたいだ。  限界を感じて思わず痛いほど反応している自分自身に手を伸ばすと、やんわりと日野の手に止められた。 「ね、夏彦って呼んで。そしたらイかせてあげるから」  こんな時に止めるなんて外道かよと普通の状態ならつっこめるけど、今突っ込まれているのは俺で、だからこそ余裕なんかこれっぽっちもなくて。 「なつひこ、もう、むり」  求められるままに素直にその名を口にすれば、日野は悔しいくらい男前に笑って俺を止めていた手を外した。 「好きだよ春海」  そして聞こえた嬉しそうな囁きが、一番激しく俺を貫いた。  その短い言葉の中に詰まった溢れるほどの感情に一番の快感を覚えて絶頂を迎えた俺は、意識を手放す一瞬のタイミングで大事なことを思い出した。  ああ、そうだ。俺、この声に安心して身を任せたんだった。

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