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第2話
「彩入さまは番を得られたのですね」
「ああ。悪いけど、これからはよそで血を見繕ってきておくれ」
嬰児を抱えたまま洗濯係に服を渡せば、一瞬の真顔ののち、新しい服を出してくれた。
「わかっておりますとも。わたくしにもはやく番ができるといいのですが……」
番が生まれぬ間は造血鬼は他の吸血鬼に血を与えることができ、また吸血鬼は他の造血鬼から血を貰える。だが、番が生まれたその瞬間に血に制限がかかり、別のものに血を与えることも、貰うこともできなくなる。
「吐き出した分、また与えた方がいいのだろうか」
「少し様子を見てみてはいかがでしょうか」
「……そうだね、そうするよ。それ、よろしく頼んだよ」
ヒラヒラと手を振り出ていく洗濯係を見送り、ソファに嬰児を転がす。
「坊、お腹はすいているかい?」
声をかけても言葉を理解せぬ嬰児はきょとと彩入を見上げるだけ。
「――ふふ。小さいねぇ、坊」
吸血鬼と造血鬼の成長速度は個々によって違う。緩やかに成長するものもいれば、急速に成長するものもいる。だがいずれにせよ共通していることはある程度まで育つと一度成長が止まるということ。
大体外見年齢二五歳前後で成長は止まり、そこから数百年変化はない。その後また成長が始まるがこれもまた個々により違う。
「さて、坊はどうやって成長していくんだろうねぇ」
煩わしいものばかりで溢れる彩入の周りで、嬰児の成長は楽しみなこととなった。
* * * *
彩入は造血鬼の始祖に通ずるもので、造血鬼としての血が色濃い。
故に吸血鬼からも造血鬼からも敬われる立場にある。だが、その血筋からすればまだ若造の部類のため、目の上たんこぶはたくさん存在する。
「ようやっと番が産まれたか。子育ては順調であろうな」
「ええ、もちろん。以前子育てについて教わりましたから、なんの問題もなく。嬰児もすくすくと育っております」
――まだ引き取って一週間しか経っていないけど
その目の上たんこぶのひとつ、大叔父からの電話に、声だけは穏やかに対応していた。その表情は恐ろしく無であるが。
彩入のそばで嬰児を抱える従者はそんな彩入を見ながら笑いをこらえるので必死という顔をしていた。顔がパンパンだ。両方から平手をしてやりたい。
「よいよい。嬰児は御手洗の家だと聞いたが」
「ええ」
「ならばよいものを得た。お主ならば嬰児の子も授かることができよう」
「――――」
「よき血筋。産まれた子はひとり御手洗に渡せばいい。ふたり以上は産むように」
それだけ言って切れた通話に、彩入は静かに目を閉じる。
「面倒な」
「今度は何を言われたのです」
「――子を。ぼくとその子の間の子の話を。何百年後の話をしているんだろうね」
「ずいぶんとまあ気のお早いことで」
「ほんとうにねぇ。姉上たちがもうすでに血筋のいいものと――近親のものとも結婚して種を繋いでいるというのに、ぼくにまで産ませようとするなんて」
吸血鬼にも造血鬼にもオスとメスという概念があるが稀にオスともメスともつかぬ、両性具有のものも産まれる。これは吸血鬼も造血鬼も問わずだ。彩入はそれに当てはまるが、少し違う。彩入は骨格等は男だが、男性器がついておらず、女性器があった。
産まれた当初はメスとして育てられていたが育つにつれ骨格がメスと違うことに気がついた両親により検査がなされ、染色体が男であることが判明した。
しかし女性器は機能するため、月経もある。オスの身体についているからか、月に一回ではなく三ヶ月に一回だが。
「番が男だった場合、有り得るかなとは思ってたけど……。まだ産まれたばかりだと申したのに……本当に面倒な」
深深とため息をつき、こちらに手を伸ばす嬰児を従者から受け取る。
「坊、ゆっくり、ゆっくり育ちなさい。大きくなるのは、当分あとでいい」
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