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第3話

    「畳の部屋ってあるかい?」 「……離ならば」 「じゃあ掃除しないとだねぇ」  部屋一面に敷かれた絨毯のうえを元気に這いずり回る嬰児を見やり、「絨毯でもいいんだけど、這い這いは畳の上がいいらしいんだよ」と従者の淹れた紅茶を飲む。 「今すぐにでも掃除をしてくるよう伝えて来ます。明日には使えるようになるかと」 「ありがとう、よろしく頼んだよ」  部屋を出ていく従者を見送り、嬰児を振り返る。  四つん這いになっていたと思ったらゴロゴロと転がり、仰臥した状態で彩入の方に目を向けてくる。 「坊」  自分が呼ばれているとわかっている嬰児はほにゃっと破顔し「あうあう」と手足をバタつかせている。 「あっ、あっ、あう、あいい~」 「うんうん可愛いお子だねぇ、坊は」 「ぶうううう~っ」 「ふふふふ、可愛いね」 「ん゛ん゛ん゛ん゛~ッ」 「んふふふふ」 「彩入さま、坊ちゃんは抱き上げて欲しいのではないでしょうか」  戻ってきた従者が嬰児を抱き上げ、彩入の膝の上にのせる。 「あうあう!」 「おやまあ、そうだったのかい? すまないことをしたねぇ」  ぎゅ、と彩入の服を掴む小さな小さな手。 「可愛らしい椛だこと」  ふふ、と笑い彩入はふくふくのほっぺをつつく。  ――頑是無い小さな小さな吸血鬼。  吸血鬼と造血鬼としては番であっても必ず伴侶になる必要はない。大叔父はああ言っていたが、この子が他の個を望めば彩入はそれを許容し、送り出すつもりだ。  嬰児の髪に鼻をうずめ、ゆっくりと匂いを嗅ぐ。甘い香りとともにかおる――彩入が与える彩入の血のにおい。 「……たかだか一〇〇〇年ほどはやく産まれたからと言って、偉そうにされても困るんだよねぇ」  その態度、その長く伸びた鼻を叩き折ってやろう。 「う?」 「ふふ、楽しみだね、坊」 * * * * 「あいいっ」 「……これ、ぼくの名前を呼んでるのかな」 「そうだと思いますよ。彩入さまに向って指をさしていますし」  ポークビッツですね、従者は鼻で笑い嬰児の指を掴んだ。(この従者は主人の番をなんだと思っているのか。)  指を掴まれた嬰児は不思議そうな顔をして従者を見上げる。ニコニコと笑う従者は握った嬰児の指をにぎにぎと揉む。 「坊ちゃん、指をさしてはいけません」 「う?」 「めっ、だって、坊」 「う!」  元気よく声を出し、己の指を掴む従者の手にじゃれつく。 「わかっていただけたようですね。ではご褒美です」  きゃうきゃうと楽しそうな声をあげる嬰児を抱き上げ、従者は嬰児に高い高いをやりはじめた。(本当にこの従者は主人の番をなんだと思っているのだろう。)  まるで親子のように遊ぶ従者と嬰児を、彩入は穏やかな表情で見つめている。 「気をつけなよ」 「承知しておりますとも」  くるくると回り、従者と嬰児の笑い声が重なる。いつも、従者は嬰児と遊ぶときは従者も楽しそうで、全力で遊んでいるのがよくわかる。 「可愛らしい光景だこと」  彩入はふわりと笑い、紅茶を口に含んだ。    

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