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第5話

     吸血鬼と造血鬼が暮らす場所にも桜は咲く。  大陸にある雪国のような寒さを越え、桜は開花する。 「いい日和だ。入学式にはもってこいじゃないか」  離の庭に咲いた桜の花に手を添え、彩入はほろほろと笑う。 「彩入さん! お待たせしました」 「おや、坊。よく似合ってるじゃないか。こっちにおいで」  つっかけに足を通した児童は駆け足に彩入に近寄り、その勢いのまま抱きつく。 「本当ですか? 似合ってますか?」 「ああ、よく似合っているよ。これは入学祝いだ、襟にさしておきなさいな」  児童の襟につけたのは、彩入が母親から入学祝いに貰った鈴蘭を模したピンブローチだった。  基本的に制服さえきちんと着ていれば他は何をつけていようと許される、わりと校則はゆるゆるな学校だ。彩入もピンブローチを在学中ずっと胸につけていた。 「とても素敵なブローチですね。いいのですか? ボクがいただいても」 「いいよ、だからあげたんじゃないか。ぼくのおさがりだけど、使っておくれ」 「彩入さんの……っ? ……だ、大事にしますねっ」  手で壊さぬようにブローチをおさえ、児童は興奮したように顔を赤くする。 「? うん、大事にしておくれ」   § § § §  ばん、と何やら大きな音がした。  うろうろと校内を歩き回っていた魚月はあしを止め、音のした方を探すようにキョロキョロと周りを見回した。 「――――」 「――っ」  話し声が聞こえた。どうやら、先程の大きな音も話し声のした方角のようだった。  好奇心が抑えられず、魚月は足音を潜めて声のする方へ歩み寄る。 「血を造るだけの、吸血鬼の食料でしかない奴が調子にのんじゃねえよ!」 「お前ら造血鬼は、血を造ること以外ヒトと大差ないくせに」  聞こえてきた内容に、魚月は眉を潜めた。  造血鬼が、吸血鬼に虐められているようだ。それも、番のいないであろう阿呆な吸血鬼どもに。番がいれば、そんな考え方はしないはずだ。むしろ、造血鬼に感謝の思いしかないはず。  阿呆な輩は相手にするな、と番と番の従者から言い含められているが、見つけてしまったものは看過できない。  そこから身を乗り出し、態と足音を立ててそれらに近づく。 「ずいぶんとまあ、楽しそうなことをされていますね?」  ニコニコと態とらしいぐらいの笑顔を貼り付けて、魚月は言う。  見られていたことに、吸血鬼たちはびくりと身体を震わせながら魚月を振り返るが、魚月が自分らと同じ吸血鬼だと気づき安堵したように強ばらせていた表情を緩めた。  大柄の吸血鬼がにやにやと笑いながら魚月に近づき、馴れ馴れしく肩に腕をまわしてきた。 「お前も吸血鬼なら混ざるか? 造血鬼をいじめるの楽しいぜ?」 「――悪趣味だな」 「あ?」 「吸血鬼にとって、造血鬼がどれだけ必要な存在か……。番のいない哀れな貴様らには到底理解できるものではないだろう。これ以上愚かな行為を続けるな、同じ吸血鬼として恥ずかしい」  努めて平坦な声で――番のような話し方を意識し、魚月は孔雀色の瞳を光らせ、吸血鬼たちを睥睨した。  自分たちよりも小さく学年も下であろう魚月の物言いに、吸血鬼たちは激高する。 「っ、なんでお前なんかにそんなこと言われなきゃなんねえんだよ!」 「お前になんの権利が――」 「ボクは御手洗だ。そして、造血鬼の始祖に通ずるお方、伽藍彩入さまの番だ。お前らなど、到底ボクには敵うまい」  吸血鬼と造血鬼は家柄で上下関係が成り立っている。所謂貴族社会といわれるもの。魚月が産まれた御手洗の家は吸血鬼の中では上にいるものがいないと言えるほどに上位の血筋。そして番の家――伽藍の家は言わずもがな、上位も上位だ。 「っ――、御手洗……!」 「伽藍って……っ」  造血鬼を馬鹿にしていた吸血鬼たちもさすがに伽藍の名前には慄いたようで、顔を見合わせて悔しそうに立ち去った。 「はー……」  家の名前を使うなど小物のやることだが、それ以上に小物な吸血鬼たちだった。  魚月は囲まれていた造血鬼を見やると、造血鬼はびくりと肩を震わせた。 「――――」  助けてやった、では恩着せがましいことこの上ないが、追い払ったあとに怯えられてはあまり気分のいいものではない。  魚月はその造血鬼に声をかけることなく、その場を立ち去った。    

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