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第7話
満開になった桜を見上げる青年の背中を彩入は静かに見つめていた。
数年前から青年は彩入がいる母屋から離に移り住んでいた。三食はともに摂るし定期的に血を与えているが、それ以外では青年は母屋に――彩入に近づくことはなくなった。
このことも山茶花に相談したが「待て」と再び言われてしまっただけだった。
(ぼくは、どうしたらいいんだろうなぁ)
急に離れ始めた青年に対する悩みととある厄介事が重なってしまい、彩入はため息を我慢することなく吐き出した。
「――坊」
「彩入さん……。こちらにいらしてたんですね。どうかされましたか?」
「うん、ちょっと……、泊まりで出掛けてくる予定ができてね……血は、足りているかい?」
「明日には帰ってくるのでしたら、大丈夫ですよ」
「……うん、明日には帰ってくるつもりだよ」
――相手が許せば、の話だが。
ふ、と瞳をふせ、「それじゃあ、行ってくるよ」と青年に手を振る。
「いってらっしゃいませ、彩入さん」
頭を下げて見送ってくれる青年に背を向けて、彩入は苦笑いを浮かべた。
(何も知らない坊に、止めてほしいだなんて、わがままかねぇ)
* * * *
屋敷中に充満している焚かれたお香のかおりに彩入は顔を顰めそうになる。
「伽藍の末弟。ここでお待ちを」
促された場所に座り、目の前の閉じられた襖を睨みつけるように見つめた。
「――――あいり」
「はい」
襖の奥から聞こえた、微かな声は彩入を招くもの。襖を開ければ一等お香の香りが強くなる。
膝をついたままゆっくりと近寄り、頭を伏せる。
「……お久しぶりでございます、御前」
「うん、久しぶりだね。番が産まれてからはこっちに来てくれなくなったからね」
「……まだ、小さかった故、なかなか目を離せなかったのです」
「うん、でももういいでしょう? あいり、顔を上げて、こっちにおいで」
「……はい」
擦り寄り、足元に跪くように片膝をつく。
気だるげに椅子に座っていた個は身を乗り出し、彩入の鳶色の瞳を覗き込むようにして見つめ「ふふふふ」と軽やかに笑う。
「あいり、わたしのかわいいあいり。――さあ、おまえのからだを見せておくれ」
後ろに回された手により彩入の帯が解かれ、するりするりと着物と襦袢が脱がされていく。
立ち上がるように言われ、彩入は立ち上がる。着物を脱がした手は彩入の身体を這う。
「ふふ、きれいだね、あいり。――ねえ、あいり。ここは、番に許したのかい?」
「いいえ」
「番以外にも?」
「誰にも許してはおりません」
「そう、よかった」
ぐち、と無理やり挿れられる指。潤滑剤などを使うことなく、濡れてもいないそこはただ痛みだけがある。
彩入は痛みに顔を顰めることなくその指を甘受する。表情を変えぬ彩入に、一際笑いながら指を増やす。
「あいり、わたしの名前をよんで」
「……月雲」
「ふふふふ。あいり、あいり、わたしのかわいいあいり。もっとよんで、わたしの名を、もっと」
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