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第2話

「お疲れ様ー。今日は蒸し暑いねえ」 逢阪が洗車作業していると、佐田が声をかけてきた。 真夏を超えたとは言えまだまだ暑い日、洗車だけでも大汗をかく。 「夕方になっても涼しくなりませんよね。今日は車の回送ですか?」 作業着を少し緩めて逢阪が答えた。 「そうそう。みんな忙しいから僕が動かないと」 佐田は隣の店舗の店長だ。 いつもニコニコしていて冗談も良く言う佐田に逢阪はホッとする。 身長も自分と同じくらいで、威圧感のないこの店長はまるで浅倉と正反対の性格だ。 浅倉だったら車の回送なんて絶対やらない。必ず営業が回すのだ。 (優しいよなあ…) 「あれ、この車、浅倉のじゃないの」 逢阪が洗車しているセダンのナンバープレートを見て佐田が聞いてきた。 「そうなんですよっ。色々あってほぼ毎日手洗い洗車っす」 浅倉と佐田は同期入社と聞いた事がある。 佐田は何かと浅倉を意識しているようだった。 佐田もまた、他のエリアから1年前に現店舗へ移動してきた店長だ。 (俺的には佐田店長イチ押しだけどなー) スタッフに対しても優しいし、きっとお客の評判も良いのだろう。 どうせなら、こういう人の下で働きたいもんだとため息をつく。 「…ほぼ毎日って大変だね。職権濫用もいいとこだ」 佐田が笑いながらそう答える。 「僕ならさせないけどね」 笑ってるけど、目が笑ってない。 (あーきっと浅倉店長に呆れてるんだろうな) ザマアミロ、と逢阪は心の中でほくそ笑んだ。 夜が少しだけしのぎやすくなった頃、いつもの居酒屋で打ち上げ会が開かれた。 「8月終了ですーー!何とか乗り切りました!かんぱーい!!」 副店長の音頭で、みんなが中ジョッキを掲げ乾杯する。 「あーーうっま!!」 飲兵衛ばかりが集まってしまったこの店舗には、酒が飲めない営業も整備士もいない。 事務員の女の子さえ中ジョッキを持っている。 「この一杯に生きてるーー!」 「土井さん、女の子なんだからそれはちょっと…」 「あー、それセクハラですよーーー」 わはは、と一気に盛り上がっていた。明日は定休日、飲兵衛たちは大いに呑む。 逢阪は隣に座る営業の田城(たしろ)とホッケをつつく。 「だーかーら。何でみんな俺のいうこと分かってくれないんだよお」 テーブルを小突きながら逢阪が呟く。 「お前、ほんっとに絡み酒だなあ…」 田城が苦笑していた。 「だって俺がどんだけ店長にいじめられてるのを伝えても分かってくれないんだもん」 少し呂律が怪しいほどに逢坂は酔っていた。 「店長に聞かれたらまたなんか言われるぞ、いま遠い席だからいいけど」 「だから言ってんじゃん」 ホッケの身をほじくりながら逢阪がブツブツいつものように愚痴る。 「おう、逢阪。なんだまだ言ってんのか」 笑いながら二人の間に割り込んできたのは副店長の新井(にい)だ。歳は逢阪たちより15歳上と聞いた。 いかにも毎日飲んでますと言わんばかりの体型と、頼られる性格で誰からも好かれている。 「あの顔だしお客には好かれるでしょうし、頭が切れるから本社様に好かれるでしょうねえ」 口を尖らせながら逢阪は何杯目となったか分からないビールを飲む。 「お前に何で浅倉が厳しいのかは分からんが、浅倉の評判は他店舗でも悪い噂を聞かんぞ」 焼酎を飲みながら新井は語り始める。 「あいつがこっちに来るまではな、うちの店舗評判悪かったんだぞ。お前は新人で知らんかっただろうけどな」 前任店長の管理方法が悪く、他店舗にかなり迷惑をかけていたらしい。それを立て直し、今や他の店舗からも参考にされるほどの浅倉の仕事の進め方は素晴らしいものよ、と言う。 営業たちが率先して動くのも、浅倉が後ろで万全な態勢を取っているからだと。 「浅倉は裏で頑張るやつなんだよ。学生のとき、いなかったか?勉強してないって言いながら満点取るやつ。あいつはそういうタイプだな」 しかしなあ、と新井は話を続ける。 「あの歳で支店長候補なんて重圧もいいところだ」 その分愚痴の一つも出したくなるだろうにあいつはまったく顔に出さないんだ、すげえよ、と 少し目を細めた。 「おまえと歳が近いそうじゃないか。浅倉は。どうだおまえがもし逆の立場だったら」 新井の話に、逢阪は少しだけ酔いが覚める。 (重圧かあ・・) 今までそんな事考えなかった、兎に角、嫌なところしか見て居なかった。 「評判の良さなら、佐田店長はどうなんですか?あの人いい人っぽ…」 逢阪が言おうとしたら 「佐田あ〜〜?バカ言えよおまえ!あいつすげえ嫌われてるぜ」 隣の田城が口を挟んできた。 「何でもかんでも自分がやらないと気が済まない奴だし、チョンボしたらスタッフに押し付けるし。営業からも整備士からも総スカンだぜ?異動になった理由はそれだったのに、また今の店舗でも同じ空気になってるらしいぜ」 「え、まじで?!」 逢阪が佐田に懐いていることを知っていた新井は苦笑いしながらこう言った。 「お前少し人を見る力を養えよ。せっかく浅倉と仕事しとるんだから」 「ううう・・」 それでも何故浅倉は逢坂に厳しいのか、そこがクリアにならない限り、懐けそうもない。

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