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第3話

秋は何かとお腹が空く。 20時前に仕事を終わらせて帰宅したが、晩御飯後に甘いものが欲しくなり逢阪は車をコンビニへ走らせていた。 (帰るときに買っとけばよかったなあ) 自分が住むコーポから一番近いコンビニは職場より遠くにある。 その為、一旦店舗を通過してコンビニへ到着するのだが・・ 「あれ・・?」 何となく見た店舗に違和感があったのは事務所の明かりがまだ点灯していたからだ。 車内の時計を見ると22時をゆうに超えている。 (小さい明かりだから消し忘れかな・・) 最近は遅くまで残業すると、本社がうるさいため20時には全員帰宅したはずだ。 コンビニに向かう前に引き返して車を店の駐車場へと停める。 事務所の鍵は開いていた。 何と不用心なことか、とあきれた。 今日の最終退社は誰だったか考える。 (こんなの浅倉に知られたらヤバイって) 施錠忘れなど、晒し首モンだ、と呟きながら扉を開き入って見ると人影があり逢阪は 思わず声をあげそうになった。 人影は浅倉の席に座っており、パソコンを見つめている為逢阪に気づいていない。 その人影は浅倉本人だった。 明かりが小さかったのは自分の周りだけを点灯させて、あとは消していたからだった。 (こんな時間まで残業してんのか) 「店長」 「うわあっ!」 逢阪が声をかけると、浅倉は驚いて椅子から落ちそうになった。 心底驚いたのであろう、見たことがないほど狼狽えた顔をしている。 「何だ、オマエか…!驚かすなよ!」 いつも冷静な人間の驚く顔は何と滑稽なのか。 謝るよりも先に逢阪は思わず声をあげて笑う。 浅倉が明らかに嫌な顔をして逢阪を睨んでいた。 「す、すいません、コンビニに行こうとしたら明かりが見えて」 笑いを堪えつつ手元のパソコン画面を覗き込む。 「まだ仕事なんですか?報告書?」 「営業たちのな。さっきまではお前らのを見てたよ」 目を抑えながら浅倉は落ち着きを取り戻しつつあった。 「こんなの、明日でいいじゃないですか。深夜残業禁止でしょ」 「それじゃ遅い」 多くを語ることなく、パソコンに向かい直して浅倉は呟いた。 「お前らが今日やって頑張ったことを確認しないと眠れない」 (うわあ、仕事人間だな) すげえな、と思いつつも自分は絶対できないなと感心する。 「お前明日があるだろ、早く帰れ」 「はあ…」 そうそうに追い返される形となった逢阪は事務所を出た。 (仕事人間だけど…) 『お前らが今日やって頑張ったことを確認しないと眠れない』 (頑張ったこと…) 自分達を信頼しているからこそ、当日中に知りたいのだろう。 それは仕事というより人柄なのではないだろうか。 逢阪は車に乗り込むとコンビニへと急いだ。 5分後。 「店長〜!」 さっきと違い、遠くから声をかけて驚かさないように浅倉に話しかけたつもりだが 浅倉はまた椅子から落ちそうになる。 「えー、驚かさないように気をつけたんですけど…」 笑いながら逢阪は浅倉に近づく。 「お前、一度ならず二度までも…!」 「はいこれ」 睨む浅倉を横目に、コンビニの袋を浅倉の机に置く。 「あんまり遅くまでやると明日に堪えますよ、せっかくのイケメンにクマができちまう」 浅倉が袋を開けると、シュークリームが入っていた。 「差し入れのつもりか」 「つもりですよ、早く帰ってくださいよ」 (全く素直に受け取らないんだから…) 浅倉の顔を見ずに、逢阪は立ち上がり事務所を後にする。 もしかしたら、評判通りなのかもしれないと逢阪はふと思っていた。 裏で頑張る秀才タイプ。 それにしても、と浅倉の驚いた顔を思い出して一人で笑う。 恐らくこんな浅倉を見たのは俺だけなのかもしれない。そう思うと何だか笑けてきた。

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