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第8話
それで結局どうなったかっていうと。どうにもなってない。
忙しい要さんが、新年早々にメッセージをくれたって、すぐに予定が合わせられるはずもない。
いってる間に、新年営業開始だよ。
時間がとれそうなときに、要さんが連絡をくれるので、呑みにでようって話でまとまった。
ロリポップはまだ机の上。
どうしようかと思ったオレの気持ちは、約束ができて嬉しいと思っちゃう時点で、悩むまでもないってあきらめた。
うん、つまりはさ、要さんに惹かれてるんだよ。
だからどうこうじゃなくて、それでいいじゃんって、なった。
だって、要さんは優しいけど、オレのこと好みかどうかわかんないし。
性的指向なんて、聞かれたら答えるけど、わざわざ言うようなことじゃない。
要さんの指向はわからない。
なので呼び方がどうだろうと、かわいがってくれるなら、かわいがられていようという、あきらめの境地。
まで達したはずなのに、オレはニンゲンができていないのでやっぱり揺らぐのでした、まる。
正月明け、たまっていた業務を片づけていたら、毛筆の作業が回ってきた。
いつものように第二資材室に行ったら、何故か、普通の事務作業じゃ使わないでしょうってスペックのパソコンが鎮座していた。
「井上さん、第二資材室、使って大丈夫ですか?」
ドアを開けたらそんな感じで、でも無人で、どうしたものかと事務室に戻って、井上さんに確認。
「何が?」
「なんか、すげえパソコンがおいてあるんですけど、作業室になるのかなと」
「え? 何それ、知らない。長友部長~、なんか聞いてます?」
「何が?」
「第二資材室、モノが増えてるらしいですけど」
井上さんの言葉に、はっとした部長は、はい、と書類を出してきた。
「ごめん、うっかりしてた」
出された通知は、年末のもの。
営業からのお知らせで、第二資材室にパソコン置きますよって、書いてあった。
「へえ、増員して業務内容増やすんだ……いけるんですか?」
「社長が何とかするんじゃない?」
「うわ……胡散臭い」
すごいいやそうな顔をする井上さんと、困った顔の長友部長。
胡散臭いって、ひどい言いよう。
「社長、時々思いつきで暴走するから、尻拭いがねえ」
オレの視線に気がついたのか、井上さんが教えてくれた。
社長は何かを思いついたら、勢いのまま突っ走るのだそうだ。
うまく行くときもあれば、ただの暴走になるときもある。
確率は半々。
「せめて、常務に人事権渡しといて欲しいですよね……」
「何でですか?」
「常務って、『人招き』だから」
人招き?
首を傾げていると、井上さんが「にゃあ」と左手を顔の横において、招き猫のポーズをする。
「招き猫?」
「そう。人を招き寄せるの」
「シノさんもちゃんと人を見てるし、根拠のない勘で採用したりしてないからね」
「だって、社長が『この人!』ってつれてきたひとは、かなりの確率で大はずれですけど、常務はそんなことないんですもん」
「言いたくなる気持ちもわかるけど、それはいいっこなしね」
苦笑している長友部長だけど、これ、なんか知ってそう。
微笑みでごまかされてる気がする。
その「なんか」がなにかわかったのは、その日の午後。
正月休みの間も忙しかった要さんは、社長の暴走につきあっていたらしい。
いきなり紹介された、新人さん。
「立場としては、営業よりの内勤さんということで、よろしく」
「芳根広司です、よろしくお願いします」
社長と要さんの横に立つ人は、きらっきらで頑張りやなんだろうなって感じの、男子。
主にパソコン業務なんだって。
事務用ソフトメインに使ってたんで、とかいってたけど、じゃああのパソコンは?
「社長、第二資材室、そのままの使い方でいいですか?」
はーい、と手を挙げて井上さんが言う。
「そのままの使い方って?」
「毛筆使うときにあそこ行ったり、送付物パッキングの作業したり、プリント類の製本とかも、あそこでやってるんですよね」
「あ、そうなんだ。どおりで、物置の割に広いスペースがあると思った」
確かに、第一資材室にはいろんなものが放り込んであって、第二資材室は用紙のストックが主。
空いたスペースは、作業スぺースになっているのだけども。
しれっととんでもないこと言ってるよ、社長。
どこでなんの作業してるとか、把握してないんだ……
「必要なスペースです」
井上さんが、このぉって感じでにこにこしながら社長に詰め寄った。
「とっても、必要な、スペース です」
「わかった、ごめん。ええと、今のところ、そのままの使い方でいいです。折を見てあのパソコンはしかるべき場所に移動させます」
「了解です」
迫力に負けて社長が折れた。
井上さんがオレの方を向いて、じゃ、そういうことでって顔をする。
はい。
午後からは毛筆のお仕事ですね。
「芳根くんは、じゃあ、今日は俺についててもらおうか」
要さんがそういった。
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