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第10話

朝の喫煙習慣は、定着してしまった。 コンビニによって、飲み物買って、一本吸う。 さて頑張るぞ仕事するぞと気合を入れて、出社。 したところをいきなり 「北島くん! 待っていたわ! 行くわよ!」 と、待ち構えていた外勤の佐野部長に拉致られて、ただいま車中の人です。 「ごめんねえ、急の集まりが入って、会場の設営からすることになったのよ」 「はあ……」 「北島くんが内勤だっていうのは、充分承知してるから。盛花をお願いしたいの。あと、パシリ」 なんでも、知っている貸会場がダブルブッキングしてしまって、泣きついてきたんだそうだ。 場所はなんとかなっても、設営や会の運営に手が足りない、ということらしい。 オレは会場にいったら、とにかく、盛花にとりかからないといけないらしい。 「あの、オレ、ホントに初級の資格しかないんですけど……」 「いいの。わたしが活けたらバケツ挿花になるから、絶対にそれよりましだもの」 ころころとハンドルを切りながら、佐野部長が笑い声をあげた。 この人、ホントにかわいく笑う。 そしてかわいくない要求をソフトに突き通す。 だから、役付きなんだろうなって、思う人。 「慣れないと、周りに巻き込まれてアワアワしちゃうと思うのね。だから、何かしようと考えないで、最短時間でお花を活けてください」 「はい」 「じゃあ、よろしく」 外向きの仕事なんて初めてで。 とにかく指示されたとおりに、盛花から手を付ける。 花器は会場のもの。 花材はブッキングしてしまったという方の会場から分けてもらったのと、何とか集めてきたらしいもの。 何も持ってなかったから、はさみを借りて。 芯につかうのは、大ぶりの百合。 テキストに描いてあった講演会会場の例図を思い出す。 ホントは枝ものがあるといいんだけど、そこは仕方ない。 バタバタと周りで人が動き回る。 何もなかった会場に、椅子が並べられて、幕が下がって、照明があてられる。 「北島くん、可能なら司会スペースに小さくお花飾れないかしら?」 仕上げをしているオレの横で、佐野部長がいきなり言った。 ええ? 今から? うー…… 「活けたほうがいいですか?」 「ううん。ただ、殺風景すぎてかわいくないから、なんかできないかしらって」 会場の隅に設えられている、司会者用の小さな台を見る。 あそこの上に、マイクがあって、資料おいてってするんだよな? あれ、花器を置いたら危険そう。 近くによって台を確認。 ああ、客側が衝立状になってて、手元は見えなくなってるんだ。 「使い捨てでいいなら、何とかなります」 「うん、じゃあ、何とかいい感じによろしく~」 重石には小さな缶コーヒー。 実習の時に、確かこういう方法もあると、やっていた人がいた。 缶が隠れる大きさのブーケを作って、根元をラップと濡れティッシュで始末。 それをガムテープで缶に固定して……で、台の上、客から見えないところで、マイクの近くにおく。 台の上にスペースが確保できてるのを確認して、客側から缶が見えていなければ、オッケー。 「うん、イイ感じ」 自画自賛した後は、のんびりする間もなく、活けた時に出た端材を撤収。 片付けたら、つかってた場所を掃除しなおして、いったん完了。 なんか、とりあえずとってみた資格が、いきなり活用されてて驚きなんだけど。 ひと息つく間もなく、佐野部長から声がかかる。 どうも、オレは今日一日、この現場に拘束されるらしい。

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