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第4話

「いらっしゃいませ!!」  さっぱりとしたこげ茶の短髪に、さっぱりとした紺色のシャツに腰からかけるダークグレーのエプロン。それに、さっぱりとしていて、覇気に満ちた掛け声。  西村佑司が自社ビルの地下の売店へ行く途中で会った男は「さっぱりとした」という言葉がよく似合う男だった。 「あ……」  西村の不意を打つように「いらっしゃいませ」と言われたのもあったのだろう。  特に何も考えていないで、売店の方へ向かおうとしていた西村はすっかりと足を止めてしまった。  見たところ、カフェかお洒落居酒屋の店員のようだが、よく見ると、手書きで「いのさきべんとう」と書かれた看板を傍らに置いて、会議室に置いてある長机へ弁当を5個ほど置いて立っている。 「社長の岡田さんに良いよって言われて、今日からまずは水と金と週2日で出させてもらえることになりました。見ていくだけでも見ていってくださいね」  さっぱりした様子はそのままに、店員の男は西村に声をかける。普段であれば、「また今度」と売店へ向かう西村だったが、男を見ていると、何だか、初めて会ったような気がしなくて、見てみようかと思った。 「ありがとうございます。初日だったんで、スタンダードな5種類を3つずつ持ってきました」  まだ12時になっていないこともあるのだろうが、どうやら西村が最初の客だった。 弁当は1つずつだけで長机に乗せていて、残りは店員の男の横にあるクーラーボックスのような箱の中に入っているらしい。長机の上の弁当は右から3つはおにぎりが2つと和洋中のおかずがそれぞれ入ったセットで、左から2つはサンドイッチと一口ほどのから揚げ、サラダかフルーツゼリーが入ったセットだった。 「じゃあ、サンドイッチの方を1つ」  西村が言うと、店員の男は「ゼリーの方でよろしかったですか?」と聞く。 いつもの西村ならゼリーよりも野菜不足を気にしてサラダの方を頼むのだが、モモが好きな西村は男の言うようにゼリーの入っている方にしようとしていた。 「ゼリーでお願いします」 「良かった! なんか、お客さん、モモ好きそうだったから」  店員の男は知ってか知らずか、西村のモモ好きに触れ、手際良く、ウェットティッシュとプラスチック製のスプーンを用意し、「袋に入れましょうか」と言う。 「いや、どうせすぐに食べるからこのままで……」 「分かりました。500円になります」  西村は会計をするため、500円玉を取り出そうと、鞄から財布を取り出す。すると、社外に行くので、はずしていた社員証がパタリと店員の男の方へ飛ぶように落ちた。 「はい、どうぞって……」  店員の男が西村の社員証を拾うと、男はとても驚いた顔をする。  だが、それも一瞬のことで、男は西村に明るい笑顔を向けた。 「また金曜も良かったら、寄ってみてくださいね。西村佑司さん」

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