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第6話

「あ、今日も来てくれたんですね! ありがとうございます」  西村が地下へ降りると、一足遅かった。  西村の部署の内外を問わず、「いのさきべんとう」のファンもこの1ヵ月でかなり増えたという。ワンコインで美味しくて、毎回、種類も豊富な弁当が食べられる。あとは店員の男自体が西村とはタイプは違うものの、整った容姿をしていて、絶品の手作り弁当と極上の笑顔をくれる。  オフィスという場を考えると、つかの間にして、この上ない至福だろう。 「ゆうじさんのお弁当、美味しいからね。ほんと、自分で1人で作っているの、信じられないくらい」 「いや、それが本当だったら、嬉しいです」 「ほんとほんと。特に、1週間前のモモのコンポートが美味しかった」  あれだけ何切れか入れたデザートボックスがあったら買いたいって皆で言ってたんだ、と西村と同じくらい年の女性客と談笑が続くのを聞くと、西村は寂しいような感じに襲われた。 「あ、いらっしゃいませ」  何だか、声がかけそびれてしまって、棒立ちしていたところを西村は店員の男に声をかけられる。 「随分、盛況みたいですね」  西村は自分の抱いてしまった感情を押し殺して、やっと言うと、『いのさきべんとう』の長机の前に立つ。 「ええ、お陰で」  短く男が言うと、先客としていた女は西村に弁当を選ばれる前にサッと自分の買いに来た弁当を買って去って行った。  おそらく、女は他の人の分も買いに来たという感じだったのだろう。割と、店員の男が沢山、用意していただろう弁当は肉巻きおにぎりに卵焼きとひじきやほうれん草のおひたし、カットマンゴーが入ったものを1つ残すのみになってしまった。 「すみません。今日は急遽、他で1件、回ってきてからこちらへ来ていて。もし、これで良ければ、売れるんですけど」  店員の男が頭を下げると、西村も頭を下げた。 「いや、そんな。本当にここの弁当はどれも美味しいし、人気なのも分かります」  西村が財布から500円玉を取り出す。 「それは良かった。西村さんは何となく、肉巻きおにぎりのイメージがなくて。ああ、でも、甘いだけじゃなくて、肉にも拘ってますし、胡麻や生姜、大葉なんかも巻いてあるので、夏バテ気味でも食べやすいと思います」  西村は「それは楽しみです」と男にお金を渡そうとすると、その時、ドタドタとした足音が聞こえた。西村と店員の男はその気を取られていると、その足音の主は安堵の声を漏らした。 「よ、良かった! 今日は間に合って」  ドタドタとした足音の主に、安堵の声を漏らした主は27歳の岡田よりも若いだろうか。  大学生になりたての青年のように、社会人としては少し幼い感じの残る男は弁当も見ずに500円玉を店員の男に渡そうとすると、店員の男は困った様子で言い出そうとする。 「あの、大変、申し訳ないんですけど……」  だが、その店員の男の言葉は最後まで続かなかった。

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