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第10話
「西村さん」
自分も西村姓なので、至極間抜けな感じがするのだが、家族や恋人でもないのに悠二と呼ぶのも変な感じがする。しかも、漢字こそ違っていっても、西村自体も佑司であり、声に出して呼んでしまえば、一緒だった。
西村はホテルの前で、悠二を見つけると、駆け寄った。
だが、当の西村悠二本人は何故か、きょとんとしていた。
「あれ? 西村さんじゃないですか?」
西村の姿に気づいた悠二はもう仕事上がりだったのだろう。
さっぱりとした紺色のシャツに腰からかけるダークグレーのエプロン姿ではなく、シンプルな白Tシャツにブルーの開襟シャツを合わせ、黒のデニム地のパンツで合わせている。特にブランドものでもないし、小物にセンスが滲んでいるというようなコーディネートではないが、悠二の元々持っているものが良いのだろう。
似合っていて、デートでも同級生と会うとかにも良さそうだった。
「えーと、先程、メッセージをいただいたので、来てみたんですけど」
西村はスマートフォンをタップしていくと、悠二から送られてきたというメッセージを画面上へ表示させる。すると、悠二は暫く、画面を凝視して、何故、西村がここに来ているのかを悟った。
「す、すみません。弟に連絡したとばかり思っていて……」
悠二はバツが悪そうに、西村にスマートフォンの画面を見せる。『西村佑司』の前には『西村祐司』とあり、「まさし、っていうんですけどね」と悠二は苦笑いした。
「ああ、そうだったんですか」
何となく、西村もバツが悪くなっていき、「今日はお友達と会われていたんですか?」などと聞いてみる。
悠二の今の声は昼間、西村が会社の地下で会う時よりも高くなっているようで、悠二は少しではあるが、酒を飲んでいるようだった。
まぁ、悠二くらいイケメンで、料理もできて、気遣いのできる男であれば、彼女とかもいるかと思われたが、流石に、彼女と飲みに来て、その彼女を家にも送らず、街中で1人で返して、弟を呼び出すことはないだろう。
「ええ、同級生何人かと会っていたんですけど、結構、皆、早くに潰れたり、仕事が入って、職場に戻らないといけなくなったとかでお開きになってしまいました。西村さんは……もしかして、お仕事だったんじゃ……」
悠二は弁当を買いに来る時と同様にスーツを隙なく着こなしている西村を見て、慌てて聞く。
「ええ、でも、ちょっと突拍子もないことを考え出したりして、もう帰るところだったんです。月曜の朝に少し早く行ってやれば大丈夫ですよ」
悠二は西村の言葉に少し考え込むと、「あの、もし、良かったらなんですけど」と声をかけた。
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