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第11話

「それでは、乾杯!」  西村と悠二は○×ホテルの近くの完全個室を売りにしてある居酒屋に入ると、レモンサワーを頼んで乾杯する。 「1杯目、ビールとかじゃなくて、良かったですか? 俺はもう何杯か飲んでいるから良いですけど」  と悠二は言い、1口、レモンサワーを口にした。 「ええ、ビールは接待とかでよく飲まされるので。嫌いではないんですが、もっと色々、飲みたいですよね」  以前よりは少なくなったが、やはりまだまだ年配の中には会社の宴会はビールに始まり、ビールに終わるというような人間もいる。食の細めの西村としてはもう注いでもらったビールだけで満腹になり、料理はあまり手がつけられずに残すことが多かった。 「じゃあ、結構飲めるんだ……ってすみません。お客さんなのにタメ口はダメですよね」  と悠二は敬語で言い直すと、西村は「同じ年だし、そんなに気にしなくて良いんじゃないんですか。って、俺も敬語だ」と言う。 「特に拘らないことにしましょうか。間違いなく何の話だったか、忘れるからその度に思い出さないといけなくなるし」 「そうですね。そうしよう」  それから、西村と悠二はさっぱりめの海藻サラダや、たこのから揚げ、フライドポテト、ゴーヤチャンプルなんかを注文して、レモンサワーを2、3杯と注文していく。 「いやー、最初、見た時から何となく、初めて会った時から初めて会ったような感じがしなかったんだけど」  と悠二が何杯目かのレモンサワーをジョッキを傾けて、煽るように飲む。全く奇妙な話だが、西村が抱いていた感覚は悠二も抱いていたという。 「さっき、弟がいるって言ったと思うんですけど、俺達は似ていなくて……というより、俺が親父にもお袋にもあまり似ていなくて」  悠二の家族は父母はとある大会社を営んでいて、弟も若いながらも2年前程に別会社を起こしたという。悠二にさえ希望があれば、父は悠二を鍛えて、自分の退陣後を任せるつもりだったという。  ただ、小さな頃から忙しい母に替わって料理を作って、家族や友人に食べてもらうのが好きだった。会社を経営したり、事業を拡大していくするような方面にも感心を持とうとはしたが、あまり成果は出なかった。その上、学校の成績もそこそこで悪くはなかったのだが、偏差値の高い高校大学ではなく、普通に自宅から近い公立のところへ行った。

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