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第15話

珍しく顰めっ面で不満を零す高科に、矢千は笑って誤魔化すしかなかった。 「お前が対応していた相手……増澤さんだったか。彼が医学生で、すぐに救急車を呼んでくれたから良かったけど。誰もいないところで倒れたらどうなってたか分からない!」 「あ! そうだ、増澤さんは!?」 「人の話を聞け!!」 容赦ないデコピンをくらい、矢千は痛みに呻く。 「迷惑かけてすいません。デートもしてもらったし、もう大丈夫だからお大事に、だと。……お前に伝えてくれって言ってたよ」 「ほああ。別に迷惑じゃなかったけどなぁ。むしろ久々に外の空気吸えて、良い気分転換になったっていうか」 まだ言ってる途中だったが、高科が睨んでいるのでやめた。 「すいません、高科さん」 「……謝るなら、もう心臓に悪いことをしないでくれ」 素っ気ない返答。けど、彼は本当に憔悴しきった様子だった。 左手に視線を落とす。彼の薬指にはシルバーリングがはめられていた。いつもしていただろうか? ふと疑問に思っていると、自分の左手に指輪がないことに気が付いた。 あれ……。 もう一度高科の指輪を見てみる。それは矢千がつけていたものに似ていたが、全容は分からなかった。なにしろ内側も何も刻印されてない指輪だったので、それが矢千のものだと証明するのは難しい。 代わりに指の周りを撫でて、それとなく示唆してみせた。 「どうした?」 「何か失くしたような気がして。あ、記憶の話じゃありませんよ。着てた服でもないです」 今は患者用の服を着ている為そう言ったのだが、高科は冗談を言われたと思ったのだろう。またむすっとした顔で腕を組んだ。 何事もなかった安心感が怒りに転じたようだ。本当に大人げない。もしかして、自分の方が精神年齢は上なんじゃないだろうか。 色々考えていたけれど、可笑しくて吹き出してしまった。今は前とは違う。目を覚ました時、傍に居てくれる人がいる。 それはなんて幸せなことだろう。 「高科さん」 「うん?」 「ありがとうございます」 素直にお礼を伝えられること。その素晴らしさを、自分は彼から教わった。 形や関係性、性癖はどうであれ、彼は自分にとって大切な人間なのだ。それは絶対、これから先も変わらない。 「……矢千」 優しく手を握られる。改めて見ると、逞しい高科の掌に見惚れてしまった。 またこの手で撫でてもらったら、相当気持ちいい。そんなことを考えて、ちょっとたまってんのかな、なんて思って、とりあえず自重することに決めた。 「お願いだから、もうどこにも行かないで。行きたい場所があるなら、俺も一緒に行くから」 「う……ん」 唇が重なる。甘い果実を食べたような気分だ。 不思議と敬語は出てこなかった。友人のような……いや、それよりももっと近い、家族のような温もりを感じている。 「……つかれたなぁ……」

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