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ロマンス・トライアングル・リクルーター!
第一印象は社会人からしたら最悪、一個人からしたら格好いい男だなと感じることができた。
緩くウェーブのかかった茶髪は項までの長さ、隠そうともしないピアス穴。ピンク色のワイシャツにダークグレーのリクルータースーツ。ネクタイは結んでもいない。今までの就活生とは一線どころか世界が違っていた。
鶴来さん、流石にコイツはやばいです。第一印象が命な社会には溶け込めませんよ絶対に。
まあ顔がいいのは認める。細身ながらもしっかりと体格はできあがっているようで、着こなし方は抜群に整っていた。ここが面接会場でなく街コンであれば女性の群れに囲まれているだろう。
精悍な顔つきに浮かぶ笑顔だって悪くない。目の奥だってちゃんと笑っている。
たまにセールスマンで口元だけ無理やり歪ませているタイプがいるが、顧客は割とそういうのに敏感だ。嘘笑いだって愛想笑いだって必要な時はあるが、心の底からちゃんと笑えるならそれに越したことはない。
さっきからヘラヘラ笑っているときに除く八重歯もチャームポイントになるだろうし、愛想はよさそうだが頭の良さはピンク色のシャツが打ち消してくる。
てかなんでピンク?ファッションショーと勘違いしてんのか、この脳みそクルクル野郎。
心の声が相手に届かないのをいいことに泉はけちょんけちょんに就活生を蹴落とす。
面接をせずお帰り頂くのはこのレベルの人材か。ある意味勉強になった。
鶴来の手から履歴書が零れ落ち、床に落ちる。
余りの凄さにあの鶴来も言葉を失っているようだ。驚きのあまり履歴書を持つ手に力が入らなくなったんだろう。ひらりと面接者の足元に舞い降り、それを面接者が拾って片手で鶴来に差し出す。
「履歴書落としましたよ。ほい」
スマイルだけは完璧な男を、鶴来は呆然と数秒見つめる。我に戻ったように無言で履歴書を受け取った。その手が震えているのを泉は見逃さない。
ですよね!書類を手渡すのは両手と相場が決まっているのに。これから上司になるかもしれない(もうあり得ないけど)人間にそんな尊大な態度、並みの人間ならできない。
鶴来さんは眼鏡を押し上げて、口元を手で抑える。
そこで大きく息を吸って、意を決した様子で顔をあげた。面食らって初動を誤ったが、この人は何百人もの就活生と戦ってきた猛者だ。会議室がフィールドなら、こちらに圧倒的有利なのは絶対に揺るがない。
さあ、あの額に堂々と不採用のレッテルを張り付けて、鶴来面接官!ヘンテコ就活生にどきつい右ストレートを!
「随分と派手な格好ですね、格好良すぎてパリコレのモデルかと思った」
「鶴来さん?」
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