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ロマンス・トライアングル・リクルーター!

「長所と短所を教えてください」 これも自己分析必須のものだ。定番シリーズのメンバーである。 自分の長所を畏まりながら他人に話すだなんて、面接の機会ぐらいなものだと泉が考えていた。改めて書き出すと案外難しいもので、泉もこの機会に定番質問の回答を練ってみたが、短所は見つかるのに長所は埋もれてしまった。 長所と短所はいわばカードの裏表。裏があるから表があり、表があるから裏がある。積極性を長所に押し出すなら、短所はそれに反したものを用意する。 例えるなら「私の長所は積極的で、短所は遠慮がちなところです」という回答のように、あからさまな矛盾が生まれてはだめだ。 「結構難しいんですよねぇこういうの」 何だか過去に眠っている就活の記憶がよみがえりそうになり、泉はゆっくりと頭を振った。 考えにくい短所を作るコツとしては「言い換えれば、長所になる」ものを選ぶと良いらしい。 マイペースは物事にじっくりと取り組む、頑固者は意思が強い……物は本当に言いようだ。思考を変えればいくらでもうまいように言葉をすり替えられる。 長所短所を尋ねる理由としてはこれも客観的に分析ができているのか、それらは会社で活用できるものなのかミスマッチのリスクを減らすためにある。 集中力が試される仕事に、せっかちな人材を派遣するより、スピードが求められる営業に回した方がいい。適材適所を判断するためでもある。 「長所はよく明るくて元気なやつだなって友達に笑われてますね!でもたまにうるせーって怒られたりもするんですけど、俺的にはやっぱり静かなのよりも騒がしい方が絶対楽しいと思うんすよ。みんなでワ―!ってやればぜってぇ楽しいって!つったらお前のそれは楽しいっていうよりマジやかましいんだよってタピオカぶん投げられました!」 「場の空気をいち早く察し、自ら盛り上げ役に徹するムードメーカーなんですね。なおかつタピオカのように流行にも敏いコミュニケーションに優れた長所だと思います」 「鶴来さんなんでそんなにポジティブ解釈できるんですか?」 「短所は……そうっすね、能天気ってよく言われちゃいます。なんでもかんでも真面目に取り組まねーって。でも俺からしたらいつもマジのマジなんすけど、誤解されないように頑張りたいっす」 「自身の努力は他人にはうまく伝わらないものです。自分で頑張っていると思っているなら、間違いなく貴方は頑張っているんです。他人の評価なんてあまり気にしない方がいい。自分が人生の主軸なんですから他人の意見に振り回されぬよう、しっかりと自分をもってください」 「うわっ、俺なんか感動しちゃいました……先輩って呼んでいいですか!」 「なんだろう、いいこと仰ってる筈なのに心に響かない……あと鶴来さんの後輩は俺だけだ若造!気安く呼ぶな!鶴来さんも顔抑えて、震えないでください!」

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