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ロマンス・トライアングル・リクルーター!
「では此方からの質問はこれで終わります。泉も大丈夫だな?」
「……はい」
訊きたいことはまだ山ほどあるが、これ以上尋問を続けていると本性が剥がれ落ちそうだったので言及をやめた。
しかも自分は一介の営業員に過ぎない。人事部の真似事はそろそろ控えた方が、鶴来にでしゃばりすぎたこのデコっぱちがとでも思われたら生きていけない。
自分の中の山崎に対する評価はC判定どころか即刻おかえりくださいどうぞレベルのマイナスなのだが、なぜか鶴来の好感度は高いように思える。
平均的な面接者を担当していると、突飛した個性をもつ人間に目が行きがちになると聞いたことがあるが、その現象に陥っているのだろうか。
それにしてもこいつはないですって。心の中で申告したが、最終的には鶴来に決定権がある。怒りと興奮で荒くなってきた息を深呼吸で落ち着かせ、泉はぬるい珈琲を飲み干した。
「では何か質問があればお答えいたします。私のメールアドレスでも住所でも何でもどうぞ」
紆余曲折があったけれど、逆質問のフェーズにたどり着くことができた。
質問を受ける側が、主導権を握る瞬間だ。しかしここも当然チェックポイントに入る。どのような質問を相手側に投げかける事により、その企業の隠された部分を掘り下げることは、面接者が企業選びの材料を見つけることだ。
「うーん質問っすか。お給料とか休みは求人道理ですよね?」
「はい。初任給も週休二日制もその通りです。営業員には成果次第で追加手当などもでますので、頑張れば頑張るほど評価されますよ」
うんうんと鶴来の説明に頷いていた山崎が少し苦しそうな顔で突然咳をする。
そういえばさっきから彼の声が枯れてきている。緊張は感じていないだろうが、他人と話すには知らないうちにエネルギーを使っている場合が多いので喉が渇いたのかもしれない。ここで素早く気遣いができるそぶりを見せておけば、鶴来にいいところが見せられるだろうか。
「あ、珈琲淹れましょうか。砂糖とミルクは?」
量は早く帰れるように少量にしておいてやるか。泉は下心をたっぷり含ませた笑みを浮かべた。
「いいんすか!?あ、俺ブラックで」
お子ちゃまな味が好きそうな面しやがってブラックか。泉は億面にも思ったことは出さず、席を立つ。
ついでに鶴来のコップものぞいたが、中身が空になっていたので、お代わりを持ってこようと考える。というか、珍しいな。鶴来さんはあまり水分をとらないタイプだったのに。
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