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ロマンス・トライアングル・リクルーター!

「てかさっき助けてくれたでしょ。お礼言いてえなって思って。あのオニーサンがいないうちに」 あのオニーサンとは泉を指しているのだろうが、お礼を言われるようなことをした記憶が鶴来にはない。 「いつの事でしょう?」 「ほら、あの目つき鋭いオニーサンの質問に詰まってた時」 そこまで教えられて、やっと合点がいった。どのような形で貢献できるのかと質問されて悩んだ際に、自然と口をはさんでいた。しかし、それは。 「あれはさっきも言ったように私がそう感じただけなので」 山崎はきっと誰からも好意的に受け取られ、人に囲まれて生きてきた青年だ。 この数分で彼の人柄を見分けた鶴来とは正反対の人生を送ってきたことも想像に容易い。仕事に励めば励むほど、何故か親しい同僚や部下は少しずつ遠くへ離れていく。 どうも彼の真面目さは他人を怯えさせてしまう副作用があるらしく、それを本人は理解していない。 淡々と人を追い詰め、時には望まない人事異動を上から任される。 汚れ役を買って出ているという自覚もない鶴来を慕うのが、営業部時代に面倒を見た泉だけだとしても。一人には耐えられるが孤独にはなりたくない。家に帰っても誰もいない鶴来からすると、友人と飲みに行く機会が多い山崎は眩しく映っていた。 「いいんす。結果的に俺は助けられたなーって思ったんで。まあ、面接官にフォロー入れて貰ってる時点でオレもう駄目なんでしょうけど」 「いや、そんなことは……」 「でも、もし入社できたら、俺は貴方と仕事がめっちゃしたいなと思いました。鶴来さんめっちゃ優しいし、何より仕事に対しての熱意伝わってきたんで。よく人に言われません?真摯な人だーとか・さっきのイズミヤさん?みたいに慕ってる部下さんとかもたくさんいるでしょー」 「……私は人事部だから、そこまでかかわりは持てないと思いますが」 そういうところが、好かれる理由の一つなんだろうか。とても真似できそうにない。 私もできるならばそうしたいと伝えることは、なんとなく憚られた。 さっきから意識しないうちに、自分をよく見せようとする発言を連発している事にさえも気づいていない鶴来の口角が自然と緩む。 あまりの不整脈に気を取られて、窒息寸前の表情で俯いた鶴来の頭を埋め尽くす感情の名前が一瞬だけ脳裏をよぎって、またどこかへ溶けてなくなる。ただ瞼の裏側にまで届く彼の煌めきが眩しくて仕方がない。

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