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ロマンス・トライアングル・リクルーター!

「すみません遅くなりました。給湯室が混んでいて……っておい君!なに鶴来さんに接近してんだ!離れたまえ失礼極まりないぞ!ここに見えない壁があるのが分からないのか!」 「ATフィールド全開っすねー」 机前にいた山崎を大慌てで引きはがすことに成功した泉は奥歯を噛み締めた。 まったく油断も隙もあったものではない。給湯室で鶴来に夢を見る事務員だけに意識を向けていたが、思わぬ伏兵がここにも!しかし、こいつは鉄砲玉だ。内定が出ていない今、こちらに食い込んでくる銃弾はいない。 きっと時間をおいて落ち着いた鶴来なら、冷静な判断を下してくれる。パイプ椅子をきしませながら腰を下ろした山崎をみて舌を鳴らしたくなったが、社会人として我慢する。 「それでは本日の面接は以上となります。お気を付けてお帰りください」 「はーい。んじゃ、鶴来さんもお元気で!時間あえば飲みにでも行きましょー」 気楽な笑顔を浮かべてひらひらと手を振って割とあっさり山崎は部屋を出ていった。なんだ、あんなに濃い印象を植え付けてきたのに、帰りはやけにすんなりしているな。引き際が潔すぎて逆に気持ち悪い。 「ん?あいつちゃんと鶴来さんって……」 「今日はありがとう。何か学べることはあったか?」 何かに気づきかけた泉に、鶴来は書類を整理しながら話しかける。突然声をかけられた泉の背筋をまっすぐ伸ばし、片付けを手伝いはじめた。 「ええまあ。面接官からの視線とかなかなか経験できませんし、本日はお世話になりました。でも本当に大変ですね、面接官って……興味のない話でも聞かなきゃならない」 さりげなく山崎についての非難を混ぜ込んでみるが、無表情で鶴来は受け止める。 「そうだな。だが、面接を受けに来ている彼らも同じくらい大変だろ。努力や準備は必ず力になるが、内定をもらえるのかどうかは結局のところ時の運と縁だ。いくら企業研究を研鑽しようと、縁がない時はどう足掻いたって内定には繋がらない。いつか自分が輝いて働ける会社に出会えるまで根気強く粘るしかない。うちとしても、優秀な就活生に巡り合えるまでやり込まないとな」 「流石、鶴来さん……思慮深すぎる……」 とりあえずできる限り山崎の悪評を営業部長に告発して、不採用への道に突き飛ばしてやろう。一を十に話を盛るだけだから、あながち嘘だとは断定できないだろう、あの弱気部長には。 一生ついていきたい先輩ランキング殿堂入りを果たしている上司からの有難いお言葉に熱くうなずきながら、泉は黒い考えを腹にため込む。 どう貶めてやろうかと企む部下の隣で、鶴来は山崎の履歴書の写真に視線を落とした。写真の中でも変わらない輝きを放っている。この笑顔を見ていると、なんだか心まで優しくなれる気がする。頬から力が抜け、鶴来は目じりを細めた。 「……就活だなんて所詮は運と縁」 この出会いや想いもそれでしかないだろうし、多分それでもいい。 きっかけさえあれば人はまっすぐ未来に向かって進み続ける。ならば鶴来が抱え込んでいる温い熱さえも、なるようにして形を描いて、彼の人生に彩を与えるだろう。どういった結果になろうが、繋がった縁は易々と千切れない。確かに鶴来に暖かい言葉を投げかけ、彼の気持ちが軽くなった事実は変わらず、記憶として残り続ける。 「時間があればでいいからまたレポートでも纏めといてくれるか。記入事項はこれだから、泉の意見も尊重して採用するか決めたい。あと役員たちにも資料として回す」 「わかりました。素直で、誠実で、ありのまま、感じたように記入しておきます

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