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急募、ドMという誤解を解く方法 2

  「雄大、俺の話を聞け」 「ちゃんと俺は哉太と向き合ってる」    俺は俺の嫌われっぷりをきちんと把握しておくべきだった。  ここまで徹底して俺たちの間に亀裂を入れてくる根性のねじ曲がった人間がいるとは思わなかった。   「俺は確かに哉太を傷つけられない。でも……哉太が望むなら頑張る」 「頑張らなくていい」 「これから先も俺は哉太と一緒にいたい。すぐは無理でも哉太の気持ちのいいことが出来るように努力する」     捨てないでと縋りついてくる雄大はメチャクチャかわいい。眠る前に俺を責め続けていたのが一転して俺の真の性癖に気づくことが出来なかった自分を責める方向になったらしい。  いや、俺の真の性癖とかないから。  あえて言うと積極的に腰を動かして焦ったり慌てたりする雄大を見るのが好き。  気持ちよくて腰が止まらないとか言って射精猿と化した絶倫雄大だって俺からするとかわいい。  思い出すと初体験はともかく雄大とのプレイだってそれなりにハードだったりするんだろうか。   「お前がする努力はまず俺の話を聞くことだ」    傷をえぐって塩水を浴びて風に当たるような感じだけど俺が爪をはぐ痛みがどれだけのもんか切々と語ってやんよ。  怖がりな雄大はきっと泣くだろうが、俺のための涙なら先程までの涙とは違う。俺を責める涙じゃないなら、ちょっとは報われる。   「いやだっ!! 別れ話なんか絶対に聞かないッ!! チンポ狂いの変態性欲を持ってても俺は哉太と離れたくないって言ってんだろ」 「誰がチンポ狂いだ!! アホがぁ!!」 「じゃあなんなんだよ。会計が言ってた彼氏以外に抱かれるのが好きだってやつか? ……うそだ」    信じたくないと首を小さく横に振りながら身体の軸がなくなったように雄大はゆらゆら揺れる。  騙されすぎだ。うっかりさんか。    世の中にはそういう趣味の人もいるかもしれないが俺は性的な嗜好はノーマルだ。   「――あ、あはは。そっか。哉太ってマゾなんだよな」    急にイヤな感じに笑う雄大。  俺の前以外で見せる『生徒会長、五月雨雄大』の顔だ。  身長差もあって容赦のない見下し。瞳は冷え冷えとしている。  今まで俺が雄大に向けられたことのない顔。  怒った時でも俺に対しては拗ねたような顔だけで他人にするような切り捨てるような表情は見せない。   「俺にお仕置きってやつをしてもらいたがってんだ? だから、これからも他人に股を開くなんて言うんだな」    ちょっと待て。今までの会話の中にどこに他人に股を開くという俺の宣言があったんだ。  雄大はちょっと正座して落ち着け。頭を冷やすんだ。寝て起きたばかりでよく分かってないからの発言だよな。そうじゃないと俺の雄大がドSさんになってしまう。   「痛くされるの大好きなんだろ? 知らなかった、ずっと我慢させててごめんな」    手を伸ばしてくる雄大に危機感を覚えて俺は身体を低く沈めた。  たぶん平手で顔を叩こうとしたのだろう雄大は体勢を崩した。  そのまま俺は雄大のアゴに向けて拳を振り上げる。  頭が揺れてうまく脳震盪が起きている雄大を玄関に置いてあるガムテープでぐるぐる巻きにする。    事実が分かった時に俺を殴ったことを雄大が後悔し続けるのは目に見える。  だから俺は殴られるわけにはいかない。

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