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急募、ドMという誤解を解く方法 4

 自分より焦っている人を見ると冷静になるというように雄大が泣きわめくから俺がしっかりするしかないと思えるようになった。悲しんでいる場合じゃない。  負ったダメージは軽くならないけれど俺が沈んでいたら何も終わらないし始まらない。雄大が使い物にならないのは知っている。俺の母親も精神的にダメージがあるとパニックに陥って斜め上を爆走する。    だから、雄大を恨む気持ちはない。雄大がしっかりしていれば防げたかもしれない。  雄大を好きでいる人間たちなんだからアイツらの中で雄大の言葉は絶対だ。雄大に嫌われないように俺に対する風当たりだって緩和したかもしれない。  でも、俺がそもそも人を駒のようにするなとか偉そうにしないで少し歩みよればいいとか雄大に言ったのだ。    周りと関わりを持とうという雄大に俺の存在は邪魔なんだろう。    この学園にいる間、俺が一番平和に過ごす方法は雄大の窓口だ。  雄大はそもそも俺以外と関わりたがらなかったけれど周りは雄大の言葉や考えを知りたかった。  俺は雄大の考えが分かるから解説よろしく人に語って聞かせたことだってある。それは自慢や優越感からのイヤな態度に見えたのかもしれない。    そして、雄大自身が他人と直接関わるっていくのなら窓口だった俺はただの障害物。  俺越しの雄大の意思じゃなく雄大自身から意見を求める。  それは当たり前のことだけれど正論で雄大を導くべきじゃなかった。  俺は知らずに最大の武器と盾を捨てていたのだ。  雄大によって俺に被害が来るかもしれないけれどそれは雄大によって防ぐことだってできたのだから、もっと上手く立ち回るべきだった。    世界は正義が勝つわけじゃない。  正論で俺は救えない。  正しいことを口にしても一般的な常識よりもその場のルールに負けてしまう。  正義自体が多数決で決まる曖昧なものなのかもしれない。 「雄大、俺は雄大が好きだよ」 「俺も哉太が好きだっ」     ガムテープでぐるぐる巻きにされながらも雄大は口にする。  あんなに泣いていたのにまた瞳は潤みだしている。  離れないで、捨てないでと全身で訴えるような雄大を嫌いになれるわけがない。    使えるものはすべて使って状況を整理して、雄大ときちんと話し合えるようにしないといけない。  俺が傷ついて苦しい分だけ雄大はきっと事実を知って痛くて死にたくなる。  逆の立場で俺が無自覚に雄大を傷つける道具にされていたら辛くて死にたくなるだろうから分かる。    でも俺だって雄大に全く怒らないわけじゃないし、雄大の言動で何一つ傷ついていないわけじゃない。  仕方がないことだと分かっている。ハメられたんだって分かってる。何もかもを見通して先に手を打ってほしいとか俺の気持ちを汲んで欲しいとかわがままでも思う。   「哉太? どうしたんだ」    落ち着いている雄大を見てガムテープをはがしてやる。  まだ雄大に甘い俺は決めたクセに口の中が渇いて上手く言葉が出て来ない。   「雄大、俺のことを好きなら」    こんな言い方をしたら雄大が動かないわけがない。  俺への愛に対して雄大は嘘をつけない。エイプリールフールで嘘だと分かっていても嫌いだと言えないのが雄大だ。  愛に対して誠実でいないといけないと言ったのは俺の父親だったかもしれない。  冗談でも場の空気に流されたのだとしても愛の言葉を嘘で汚しちゃいけない。  偽りや誤魔化しを愛に混ぜたら愛が歪んでしまう。少々ポエミーな父親の言葉を雄大は感心して自分に刻み込んでいた。    愛に誠実であることによって自分を追いつめることになっても俺への愛を捨てられない雄大。  それは愛が苦しみを生んだとしても逃げずに向き合うしかないということ。   「――俺のことが好きなら地獄に落ちてくれ」    本当にごめんな。  でも、俺たちはもう、こうするしかない。

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