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情報整理と行動の方向性 6

 俺を好きだと泣く雄大を思えば人間不信の引きこもりニートになるわけにいかない。  たとえ誰もが俺を責めなくても、休んでろと言ってくれたところで、優しい言葉に頷けない。  雄大を好きな気持ちで負けるわけにいかない。  雄大を好きな気持ちで人を傷つける奴を放置できない。  雄大を理由に使う人間たちを許せない。  そう思えば歩きだせる。  身体の不調は精神が肩代わりしている。  まともじゃない。自分の身に起きたことを思えばまともであるわけもない。   「キシさん」    キシなんんたらというのだろうけれど下の名前は知らない。  物心ついた頃から家政夫として俺の家にいる俺の母親の友人。  母親は恩人だというし、父親も容認している。  雄大の両親も当たり前に受け入れているキシさんの存在。  初等部に入った時も不安がる俺の母親を安心させるために保険医としてついてきた。  そんなこと出来るのか謎だがお金の力かもしれない。    寮の設けられた医務室。それがキシさんの現在の居場所。  ここに来るまで誰にも会わなかったのは幸運だ。   「なんで扉の前にいるの」    白衣を着て眼鏡をつけている長い黒髪を後ろでまとめて赤茶な瞳を細めて俺を見る。  キシさんはどこか人外じみた魅力がある。  いつも髪の色や目の色を変えて奇抜な服を着るキシさんはただのオタクだ。  外人らしい顔立ちなのに日本食が大好き。  自分では作れないから俺たちをそっちのけで俺の母親に煮物を作ってくれとせがむ。  家政夫として俺たちの子守をおざなりにする程度の人。  でも、キシさんのおかげで俺と雄大は両親たちがいなくても淋しくなかった。    いつ見ても三十代か二十代前半にしか見えない若作りな人で浮世離れしている。   「血の匂いがしたから心配して……なんかヤバげ?」    ちょっと電波だと思う。  血の匂いが怪我をした指先に対してのことならそんなに匂いはしないはずだ。  それとも自分の匂いは気付かないのか。   「話は聞く気はないけど」 「ないのかよ!」 「治療はするよ?」 「メンタルケアは範疇外って逆に潔いな」 「だってボランティアだし、カナたん俺のこと友達じゃないって言うじゃん」 「カナたん言うな」  俺の母親が俺のことを「哉太ん哉太んカナたんたん」言うのがいけない。キシさんにもカナたん扱い。  キシさんといるときに雄大以外と会ったことがないので別にいいけれど。   「友達じゃないって……ソシャゲの誘い断ったの気にしてるわけ?」 「どうやらキー様とわんわんが眼鏡好きらしいから伊達眼鏡をつけて励んでるんだけど……ヴァンパイアが出て来ないんだよ。新キャラで発表されて喜んでたけど全然来ない。課金しても来ない。課金したから来ない? 一番初めに俺のところに来るべきなのにさあ」    欲しいモンスターだかなんだかを出すためにゲン担ぎするにしても眼鏡って。いや、何も言うまい。  いつも通りのキシさんに気が抜ける。   「あ、困ってるなら願いを叶えるアプリを教えようか。大抵のことは出来るよ」    怪しい響きだ。   「情報屋のウワサ知ってるだろ? あれあれ」 「なにそれ」 「相談あるならそっちにするといいよ」    笑うキシさんが見せてくるスマホの画面はチャットルームの様子らしい。   「ソシャゲじゃねーか!!」

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