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治療と情報提供先 1

 医務室という名のキシさんの部屋に入れてもらう。  ここで他の誰かに遭遇したことがない。  学園は広く医務室がいくつもあるから寮にあるキシさんのところは知られていないのかもしれない。近くに診療所のようなものがあると聞いたことがある。何かあったら普通はそこに行くのかもしれない。    ソファに座っているとキシさんがタオルと水の入った洗面器を持ってきた。  見ていると救急箱から消毒液やガーゼ包帯各種も確認している。  考えないようにしていたけれど痛い。   「満身創痍っぽいねー」    ほがらかに言われてブチ切れそうになる。  雄大に関して寛大すぎるからか八つ当たりな気持ちが何の関係もないキシさんに向かっている。母親から言われていることがある。  キシさんは絶対に敵に回らないけれど味方じゃなくて仲良しの隣人なのだという。  つまり傍観者。  挨拶はするし世間話も楽しいけれど相手の家庭の事情には踏み込まない。    もしどうにかなるとしてもキシさんに泣きつくのは両親に頼るのと同じことだろう。  人任せで自分の気持ちを置き去りにする。    俺の家にいても俺はキシさんのことを全く知らない。  でも、疑うべき人には見えない。  長い黒髪と今つけている眼鏡のせいで野暮ったく見えるけれど基本的に物凄く美形だ。  美形と知り合うことが多い俺だけれどキシさんは段違い。  人外的な魅力がある。魔性というやつ。  でも、性的な気持ちになるかと言えば全然。  オタクな言動のせいかもしれない。   「……絆創膏を貼ってるなんて治療したヤツは悪意あるね」    剥がされた爪を当てた状態で絆創膏を巻かれている。  爪がプラプラ揺れている。視覚的にも痛い。  絆創膏をはがす時に爪をはがす時の痛みをまた味わうことになるとキシさんに言われた。  なんだ、それ。つらすぎる。  脂汗をかいて痛みに耐える俺に困ったような顔をするキシさん。  ハッと気づいたように「内臓抉られるのに比べると見た目は地味だけど爪はがしって痛いよね」と比べるレベルが違うことを言われた。  オタクだからか。内臓抉られたら死ぬわ。  見た目が派手なのが内臓抉られるって例えにしても酷い。  比較して大したことがないと言いたいのかよく分からない。   「よく発狂しなかったね。強い子いい子」    頭を撫でられて泣きそうになった。  いま泣いたら折れてしまう。   「やさしさ無限大なお兄さんが痛くないように処置してあげるから目を閉じて休んでいるといい」    言われて素直に目を閉じる。  当たり前に疲れている。  地獄が終わって、怖くて、痛くて、気持ち悪くて、眠ることなく朝を迎えて雄大がやってきて淫乱ビッチ呼ばわりときた。  やさぐれたっていいだろと思いながらも俺が雄大にしたことに後悔しているし、この先のことへの不安は大きい。でも、俺に危害を加えてこないだろうキシさんに安心する。    何も聞かない傍観者は冷たいのかもしれないけれど、この距離感でいい。  踏み込まれたところで俺は狼狽えて八つ当たりで滅茶苦茶に喚き散らすだけだ。  それは自己嫌悪の発生原因。    俺は治療してもらいたくて、ここにきた。  そして実際キシさんは治療してくれている。  それでいい。これは信頼というより事実だ。  俺の話を聞いて俺の問題を解決してくれるわけじゃない。  でも、それでいい。敵じゃない人がいるのが確かだと分かっただけでいい。

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