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まずは行動 7

 寮の一階の脇から外に出ると庭園がある。  その庭園を見下ろす位置にガラス張りの建物がある。席数二百前後のレストランが日曜日の朝五時から夜十一時まで開かれている。  本来はレストランではなくレクリエーション用の多目的ホールらしい。  以前は生徒会所有の物置のようにされていた建物を日曜日だけ解放するレストランにしたのは過去の生徒会だとか。    それもあって生徒会役員は特別席、特別メニューがあるレストランだ。  注文方法はファミリーレストランのようだけれどメニューは微妙に外している。    目的の人間を考えれば一番初めに行くべき場所だ。    ここも小料理屋と同じぐらい寮と近いといえるけれど俺はご飯を食べる場所に数えていなかった。出来るなら足を向けたくない。ここまで拒絶反応が出ていることに自分自身驚く。精神的苦痛を俺はいろいろと見ないふりをしていた。    ちなみに嫌な思い出というのが雄大とレストランに足を踏み入れたせいなのか出来立てのラーメンとカレーをぶっかけられたこと。  カレーライスではなくインド料理のカレー。  ナンにつけて食べるサラサラとしたカレーは冷めないようにかなり熱い状態で提供している。ラーメンもいわずもがな出来立ては熱々のスープだ。  下半身にカレーがべったり、肩からラーメンの麺を含めてスープ。    熱さとショックで呆然とする俺に追い打ちをかけるように冷水。  いや、冷水は正直助かった。けれど頭から氷入りの水を浴びせかけられて頭が回らないでいるところに「なんでこんなところにいるんだよ、帰れ」という生徒会親衛隊長の声。    正面から見ていた俺は声の厳しさに反して心配しているような顔にハッとした。  雄大の親衛隊長はいつも俺を取り囲んで何だかんだと文句を言っても分かりやすく俺を排除したりしない。特に高校になったとき、雄大に何かを言われたのか活動は控えめになっていた。  それが「早くここから出ていけ」と硬い声。  雄大も察したのか動かない俺の手を引っ張って入ってきた道を引き返した。  俺の背中にかかる声は親衛隊長のものではない罵倒、野次。  雄大が振り返ることもなく低い声で「黙れ」というまで大火傷をして死ねとまで言われた。    ただ雄大と一緒にいただけでレストランで火傷するなんて考えもしなかった。  親衛隊長のおかげか、寮に近いからキシさんにすぐ手当をしてもらえたからか、跡が残ることはなかった。けれど身体は暫くの間ヒリヒリとした痛みにさらされた。    一番許せないのが俺に食べ物をぶつけてきたのが店員であるということだ。  足を滑らせたのなら不幸な事故だけれど彼は笑っていた。日曜日だけのレストランなので学園の生徒がウエイターのバイトをしていることもある。  顔も覚えていないけれど若さから考えて店員は学生で俺に悪意があったのだろう。    俺が嫌いである前に店員として客に食べ物をぶつけるなんてあってはならないことだ。  注文した人はダメになった分、食事が遅くなる。  俺への嫌がらせにしても人を巻き込み過ぎだ。  食べ物を粗末にするのは一番いけないことだ。「お百姓さんに申し訳ないと思わない?」とキシさんに食べ物で遊んだ俺と雄大は説教された。  今にして思うと「お百姓さん」っていう単語を使いたかっただけかもしれないけど、キシさんの農家を大切にねというメッセージは俺に染み込んでいる。    店員の行動にはらわたが煮えくり返ってくるのでレストランにあれから行ったことがない。  俺が来なければ平和だったなんていう悪意ないつぶやきがあの事件の後に囁かれていたのも痛い。  雄大がラーメンとカレーをレストランのメニューから廃止したのだ。生徒会長権限怖い。  というか、ラーメンとカレーは何も悪くない。  でも、俺に害をなした食べ物として排除。  俺はもうレストランに行くこともないのにレストランのメニューから消える。  それに反発する生徒はかなり多かった。    誰もが不幸な事故だと思っていたし、むしろ店員よくやったという空気だ。  雄大の気が済んだのか、生徒からの苦情が多すぎたのか、その内メニューにラーメンとカレーは戻ってきたらしいけれど、俺への反感は着実に育った。

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