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副会長との対面 3

「それでわざわざ僕を訪ねてきたということは……あなたも僕を忘れられないということですか?」    ある意味忘れられないけど、副会長が期待してる方向じゃない。  お前たちみんなをキッチリと地獄に叩きこむための下準備中だよ、こっちは。  俺が怯えてビクビクするとでも思ってるだろう相手に平気な姿を見せて逆に動揺を誘いたかった。だから、昨日の今日で行動してるけどあんなことがあって平気なわけがない。  強がりの空元気でもやらないわけにはいかない。    が、全然予想していた流れと違う。  何なの、コイツなんなの。本当もう、なんなの。  親し気な顔で話しかけられる立場じゃないと思うんですけど。   「恋人になってあげてもいいですよ」    頭叩きたい。上から目線のポンコツを四十五度の角度でチョップ入れたい。  副会長がこんな愉快で不愉快な人だとは知らなかった。俺にやったことを考えなければ普通は吐けないぞ、その台詞。   「実はですね、書記に音声だけ加工してもらったものがあって」    得意げな顔で副会長が俺に聞かせてきたのはまさに知りたかった当たりの情報。  再生された俺の桃色な音声は意識から排除の方向で。  たぶん、副会長と対面座位状態で双子の指示で副会長の名前を言いながら好きだとかなんだとか言ってたところだ。  まあ、好きって言えと強要されただけで言った覚えはない。  セックス好きとかコレ好きとかおチンポ大好きとかそういうので逃げた。    俺が好きなのはあくまでも雄大でそれはクスリを盛られようが爪をはがされようが変わらない。  だから、嘘でも命令でも別の誰かを好きだとは言わない。  それだけはきっと死んでも言わない。   『――素直に好きって言ってくれたら、こんな事しなくて済んだのに』    頭の中で弾ける記憶。クスリのせいもあって記憶は飛んでいる。  無理して思い出したくもないから事件の記憶から情報を得るのは諦めていた。  けれど、やっぱり真実はすでに俺の手の中にあるのかもしれない。   「不幸な事故から始まりましたけど、身体の相性はいいようですし付き合ってあげてもいいですよ」 「こんな事故から始まる恋があるかっ」 「なっ! いつだって始まりは意外なところからなんですよ!! 嫌っていた相手の良い所を見つけて溺れていく! まさに今の僕の心境ですっ」    お前が溺れているのは色欲だと言い返す気力もない。  副会長の告白とか死ぬほど不快なだけだ。    とりあえず副会長を蹴り飛ばしておく。  顔面というかアゴを狙って蹴った。  長身なので最初に弁慶の泣き所あたりを蹴っておいたのでいい感じに体が沈んでアゴを狙いやすかった。  ちなみに俺のやりかたじゃなく雄大の十八番(おはこ)。  転ばせて踏んづけたり蹴り上げてドリブルみたいなのが得意だ。  足が長いからずっと相手を蹴り続けて地面からおさらばさせることが出来るんだろう。    俺はとりあえず地面に這いつくばってもらうことにした。  副会長は敵とは言えない。  だからこそ、物凄くムカつく。

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