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副会長との対面 6
副会長の腹や顔面を蹴り飛ばしたかったが堪える。
別に副会長はものすごい悪人というわけじゃない。話していて分かった。
俺を睨んだりすることはあったし嫌味だって言われてきた。
でも、直接的な嫌がらせはされたことがない。
元々、生徒会役員と俺はお互いに不可侵だった。
親衛隊たちは率先して近づいてきては悪意をぶつけてくる、けれど役員たちは俺を視界に入れたくないと言わんばかりの態度だった。
「こんな形になってしまいましたが僕はあなたとちゃんと話をしたいと思っていました。五月雨会長の件とは別に……。初等部の頃に隣の席だったんですよ。最初はわりと話をしていたのに急に無視されるようになって」
無視したりした覚えはない。
けれど雄大を優先するあまり周りへの配慮は欠けていたかもしれない。
雄大が前の席だったからチラチラと振り返って俺を見てくるのだ。
それに対して口を「前を見ろ」と動かしたりなんだりしていた。
意識を雄大にだけ向けていたからその時に話しかけられていたら、気づいていなかったかもしれない。
「悔しくてイジメを煽るようなことをしてしまいましたが、あなたは平気そうでしたし、上級生と仲が良かったから僕のことなど覚えていないでしょう」
当時、誰がどういう風に俺に嫌がらせを仕掛けていたのか把握していない。
知っても訴えたりするわけじゃない。
集団の目には見えない悪意が「コイツが自分のことを嫌いなんだ」という具体的なイメージに変わってより気分が悪くなるだけだ。
俺は別段強い人間というわけじゃない。
人から嫌われたり悪意を持った目で見られるのが平気じゃない。
普通の精神状態を保つために俺は見ないことを選んでいた。
誰が何を考えてどうしてそういう行動をするのか知ってどうするんだ。
たとえば殺人を犯した人間の動機が同情に足るものだからといって殺人を許容するなんてあってはいけない。
情状酌量の余地があるかどうかは司法が決めていい。
けれど加害者が被害者に求めるものじゃないだろ。
「あなたたちは二人の世界を作っていて僕たちを見もしなかった。
だから、ちょっと悔しかったんです」
それは初等部の頃の話だ。
そのぐらいの年齢でそしてあの程度のことなら比較するとまだマシ。
俺の心の中で副会長への嫌悪が薄れたり、副会長を擁護しそうになるのが何よりも一番許せない。
状況を整理するなら副会長は首謀者ですらない。
媚薬を盛られた状態で熱を発散するためにあの集団強姦に参加した。
あの現場が強姦だと気づいてもいないのは馬鹿なのかアホなのかクスリで脳みそやられているからなのか。
いいや、タイミングをきちんと調整されていた。
副会長は最初からいたわけじゃない。
俺が爪をはがされて従順になって指示された台詞を言いながら犯されている状態からの参加だ。
編集された動画を見せられて思い込んでいる雄大と同じようなもの。
実行犯であるにもかかわらず副会長にはまるっきりその意識がない。
雄大が俺を傷つけるためだけの凶器として送りつけられてきたのと同じ。
副会長に俺を傷つける意図はなかった。
雄大が俺を変態性欲の持ち主だと断定したのと同じでそうとしか受け取れない現実に対して彼らは彼らとして当たり前の反応をしただけ。
おかしいと心のどこかで思っても目の前にある圧倒的な現実、用意された解答を自分で感じたものだと思ってしまう。
罪悪感などあるわけがない。
お互いがクスリの効果とはいえ快楽を求めてる状態で熱を発散し合っている。
それが副会長の尊敬する会長の恋人だとしても、俺と接触を持ちたかったのが本音ならある意味、渡りに船。
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