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雛軋というヤンデレ 4
話を聞いてそれで俺の知らない情報を手に入れてそれでもきっと黒幕には辿りつかない気がする。
俺はあまりにも多くのことを知らない。副会長の考えも副会長が見ていたものも何もかも想像も出来なかった。
いままで見ないようにしていた大量のモノを短時間に整理できるとは思えない。
でも、諦めることはしない。
泣き寝入りするのは出せる手をすべて出しつくしてからだ。
「僕だけがキミの味方だよ。僕だけがキミのことを考えている。五月雨雄大はキミの心配をしなかったよね。キミを責めたよね」
「……そうでもない」
心配しなかったわけじゃないとまだ俺は雄大を信じてる。責めたのは一過性のものだ。
誰にだって間違いはある。
他の誰のことも許さなくても俺は雄大だけは許す。きっと、いま一人でつらい思いに耐えているはずだから。
「まだ会長が好き? 僕の哉太は夢見がちだね。そんなところもかわいいよ」
俺よりもかわいい顔をしている雛軋に言われるともはやギャグだ。
話にならないが雛軋が俺の乳首に頭を擦りつけるようにしている間にタッチペンでチャットに書き込む。
宮田:わんわんいます?
宮田:情報じゃないお願いってアリですか??
わんわん:はいはいー
わんわん:わんわんはわんわんなんですよー
わんわん:呼ばれたらわんわんわーん
宮田:味方になってもらえませんか
宮田:中立じゃなくて
宮田:助けて欲しいです
わんわん:わわーん!?
わんわん:ものども出会え―出会え―
わんわん:わんわんはこれより高みの見物に移行する
くもりよ:まさかの逃亡w
くもりよ:リアルでなんかあった?
わんわん:スマホが投げられそう
わんわん:ひどいよう
宮田:タイミング悪い時にすみません
わんわん:だいじょうぶ
わんわん:えんごしゃげきはないけど
わんわん:わんわんはいつでも
わんわん:みゃん太の味方きどりだよ
くもりよ:気取りじゃなくて味方になれよwww
宮田:いいえ
宮田:十分です
宮田:また時間があるときに
わんわん:犬の柄の包装紙で包んだお菓子をお願いですー
わんわん:まいふれんどー
くもりよ:自分の要望だけ漢字変換する余裕があるのかw
宮田:了解です
宮田:またー
わんわん:わんわん三時間ぐらいログインできないわんわん
くもりよ:いってら
くもりよ:そう言いつつ三十分程度で戻ってくるわんわんを俺は知ってるw
言うべきことは言った。
出し惜しみしている時間も余裕も俺にはない。
タイミングが良かったのか悪かったのかは分からないけれど必要だ。
雄大がたとえ来なかったとしても解決しないとならない。
俺自身の心の問題をないがしろにして生きてくことは出来ない。
雛軋の俺への愛とやらは聞き流して金曜日から土曜日の話を聞く。
双子が俺に目をつけて計画を練った話、それを聞きつけて参加人数が膨らんだ話。
殴られたり双子の所有物のような態度でいることで俺を一番初めに犯す権利をもらったこと。
今日もこれから雄大に傷つけられただろう俺の元に双子と雛軋で訪問して身体で慰める予定だったこと。
雛軋の歪んだフィルター越しとはいえ聞きだせたのは運が良かった。
副会長も雛軋も構って欲しいという気持ちを抱えて俺に向ける感情が複雑化している。
自分の声が俺に届いていることに涙を浮かべて喜ぶ雛軋は薄ら寒い。
「僕がキミを愛するようにキミも僕を愛してくれるよね」
キスをねだってくるような上目遣いで俺を見てくる雛軋。
自分の行動が異常であるなど意識の端にも上らないようだ。
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