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雛軋というヤンデレ 5
雛軋の口から出る言葉が愛情というのなら俺はそんなものは信じないし、いらないと思う。
俺はそれを愛と認めることは出来ない。だから、雛軋の存在を認められない。
「僕はキミを見ていたよ。キミを見ていたからキミが何に喜び、何で悲しみ、何で苦しむのかも知っているよ。キミが誰を愛し、何を求め、どうしたいのかだって分かる。僕はキミの孤独を知っているし、キミの痛みを理解できる。僕だけがキミの理解者で味方だよ。キミはまだこの残酷な世界を認められないかもしれない。でも、大丈夫だよ。僕の愛がキミの中に染み込んで染み込んで染み込んで二人は一つに溶け合うんだ。キミと僕の愛は一つになって誰も間に入れなくなる。キミは僕以外の何も頼ることは出来ないし、僕もキミ以外を目に映したりしない。愛しているからキミの全てを僕は知っている。どんなキミの姿を見たとしても僕はキミを愛し続けることができる。これが永遠の愛だよ。これが僕の愛だよ」
それは独りよがりで俺のことなど全く考えずに吐き出された言葉。
俺を対象にしていない妄言。
耳が腐りそうだ。
「キミは会長のことが本当は好きじゃないんだよね。知ってるよ」
微笑みながら雛軋は口にする。
俺の心に鋭い牙を突き立てるのを楽しんでいる捕食者の顔。
そのどこに愛があるんだろう。
「幼なじみで、家族同士の付き合いもあって、……そしてこの学園における唯一の味方。そう思ってるよね。味方を敵にしたくはないからキミは仕方なく会長を受け入れたんだ。もちろん、世話を焼くことによって居場所を見つけたつもりになった? 会長が必要としてくれる姿に満足して周りの悪意を見ないふりしたのかな? できたかな? どんな時も毎日ひそひそと悪口を言われて平気かな?」
雛軋の声が脅すようなすごみがないかわいらしく耳に心地いいボーイソプラノであるからこそ怖い。
こちらを追い詰める意図があるわけではなく事実を並べているだけに感じてしまうのが怖い。
「会長という盾を失ったキミは悪意の銃弾から逃れることが出来なくなる。でも心配しないでね。僕はキミを愛しているからどんなキミでも愛しているから泣かなくたっていいんだよ。僕がずっと傍にいるからね。僕だけがキミを守れるから安心していいよ」
もし、雄大が俺と別れると言ったなら俺はこの底なしの執着を有り難いと感じたかもしれない。
そのぐらいに疲れていた。心も体もへとへとで世界中が敵に回った気がして差し出された手がどんなものだとしても握り返してしまっただろう。甘く苦い毒のような感情でも一人よりはマシだ。
一時は一人で頑張れてもずっと一人では頑張りきれない。
俺は元々、雄大のフォローをすることに喜びを見出しているタイプだった。
双子のように生まれた時から引っ付いて一緒にいた。
そばに誰もいない日を過ごしたことは殆どない。
両親が仕事でも、雄大とキシさんがいる。
それで俺の世界は作られていた。
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