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雛軋というヤンデレ 7
味方のいなくなった俺に優しい顔をするのは自分だけだと雛軋は微笑むけれど、そんなものはいらない。
雄大は早とちりの馬鹿かもしれない。
けれど俺を積極的に傷つけて自分の手を取らせようとするような性根の腐った人間じゃない。同列に並べたくもない。
俺は雛軋の愛を愛と認めない。
俺を傷つけるものが愛じゃないとは言わない。
雄大は俺を愛していたからこそ傷ついて、俺を傷つける言動になった。
雛軋の行動は違う。
「これからはキミが気持ちいいことしかしないから安心してね。五月雨雄大を追い出すことだってできる。彼は元々この学園に似合わなかったんだよ。生徒会長の恋人になりたいなら大丈夫だよ。僕が彼の後に会長になるからね」
庶務の双子に取り入った理由の一つはこういうことなんだろう。
わんわんメモにあった「雛ぴよではなく怪鳥。純粋さは魔物である」というのと学力の高さ。
生徒会役員になってもおかしくない雛軋が一般生徒であった理由。
会長候補だったのだろう。この学園は前生徒会長が次の生徒会長を指名する。
初等部の頃からの流れで高等部のことも決められると言われる。
その初等部のときに雛軋は会長から外された。役員の打診があっても断った。わんわん情報の人気成績学歴その推移の欄にそういったものが記されている。
初等部の年上の先輩たちは俺に対して好意的だった。
一つ二つ上の先輩はその上の先輩たちの影響を受けるとはいっても俺に対する親愛みたいなものは引き継がなかった。
だから、雄大に対する贔屓みたいなものだけが残っている。
俺が雄大に対して世話を焼くことで安心を得ているなら雛軋が俺に向ける感情は本当に愛だけなのか。
雄大に生徒会長という座を取られたことに対する恨みはないのか。
俺は知らなかったが小さくてかわいい雛軋は初等部の頃に先輩たちからとてもかわいがられていた。
けれどその人気も雄大の圧倒的天使力の前ではかすむものだ。
それに対して何も感じないなんてないだろう。
俺を手に入れることで雄大よりも自分が上だと思いたいだけだ。
少なくとも今の俺はそう思える。
何の情報もなく、雄大に見捨てられたという心境でいたのならともかくとして、今の俺が雛軋の手を取る理由がない。
「すぐには忘れることは出来ないかもしれないね。大丈夫、僕はキミを愛しているからキミのことはなんだって分かるから」
「……じゃあ、俺を撮影しようと最初に言ったのは誰? その動画はどこにある?」
「あぁ、そうだね。気になるよね。怖いよね。悲しいよね。会長に責められて悲しかったよね。大丈夫だよ」
「俺のことを好きなのに答える気がないんだ?」
「戦利品だからって会計が参加者に配ったんだ」
「答えになってない。話す気がないならお前なんかいらない。役立たず」
目の色を変えた雛軋はすごく怖いけれど圧倒されて飲み込まれたら終わりだ。
こんな気持ちの悪いものが俺の隣の席で親切顔でいたのだと思うと吐き気がする。
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怪鳥 は会長 とかそういうわんわん語。
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