46 / 74
雛軋というヤンデレ 8
意思を持つ誰かを自分の思い通りにしようとしているならそれはとても傲慢な話に他ならない。
俺が周りに自分のことを認めさせていないで諦めているのも人は人と切り捨てているからだ。
雛軋は俺と自分の境界がない。
生徒会長五月雨雄大の被害者でありかわいそうな金宮哉太を助けられる唯一の存在だと自己陶酔に浸っている。
自分の優位性を知らしめて、俺の支配者になりたがっている。
「俺の苦しみも痛みも俺だけのものだ。お前に分かる分かると慰められる覚えなんかない。……俺の質問に答えろ、役立たず」
加害者が被害者に「つらかったよね、苦しいよね。もう大丈夫だよ」なんて言葉をかけるのがどれだけ非常識でおこがましくて当て擦りになるのか分からないなら人間失格甚だしい。自分が加害者ではないと思ってるならさっさと俺の役に立ってみろ。
「なんで……なんで、そんな目で見るんだよ。僕はキミを愛しているのに」
「答える気がないなら離れろ。もういいから」
俺が当初、副会長が表面的な指揮を執っているのだと思っていたがその役割は庶務の双子だったのだと知った。それだけで十分だ。
副会長の教えてくれた双子と書記と親衛隊の小具の件を考えると全貌はおおよそ見えた。
庶務の双子の発案に書記が乗ったのは小具が理由だろう。
そして、書記が参戦するので書記の親衛隊もやってきた。
雄大の親衛隊副隊長もその計画を知り俺が嫌いだから参加した。
副会長がその日に部屋に来ることを教えられていたのなら副会長の親衛隊がいても不自然じゃない。
ただ俺と副会長を見つめていて自分が副会長に抱かれたいと主張しなかったのは不思議だ。副会長の俺に対する感情を知っていたのなら引き離そうとしそうだが、むしろ積極的にくっつくように身体を副会長の親衛隊に支えられた気がする。
雛軋は日常的に俺のストーカー行為をしていたので外で先輩と会っている情報やどの程度の頻度で外泊しているのか知っていたのだろう。
日程やタイミングを決めたのは雛軋だ。
そのために双子のオモチャになっていたはずだ。
雛軋は雄大に不利になる捏造か何かを作っているんだろうが、それは雄大が普通の状態なら役に立たない。
だが、恋人の浮気、性癖の暴露に混乱していたら挽回できない程度のナニカ。
会長を辞任させたいなら行事が潰れるようなミスか予算の私的流用とかだろう。
普通なら生徒会役員がすることではないレベルの書類も、生徒の自主性という名の理事長の手抜きで、生徒会に回ってきている。
もちろん生徒に全責任を負わせるようなことはないだろうが責任を取って会長を辞めないとならないことにはなるだろう。
生徒会役員と親衛隊たち、雛軋の思惑は大体わかった。
情報が出ていないのは会計だけだがアレに関しては享楽主義の一言で済むかもしれない。
あと、会計は雄大天使党の筆頭だ。初等部の頃は偏執的だった。
中等部でもヤバかったが高等部になったら収まっていたので美少女的な雄大の姿が好きだったのだろう。今の男らしい姿に興味はなさそうに見える。
「なんで僕に頼らないの。おかしいよね。……まさか、……もしかして五月雨雄大と別れていないの。そんなはずないよね。だって彼はプライドが高い傲慢な男だ。自分のものだと思っていたものが他人の使い古しだと思ったら愛想つかせるはずだ」
誰が使い古しだと怒鳴りつけたい衝動を堪える。
今回だけじゃなく以前から俺と関係があったのだという前提を作って副会長に雄大に情報を流したみたいだが、雄大の価値観を分かっちゃいない。
「お尻が裂けているかどうか、身体に傷があるかどうか、調べられただろう? 指を出し入れされて柔らかく湿ったキミの中がいつもと違う具合なのはバレてしまったんじゃないの? クスリが残っていたら浮気したかどうかの検査なのに勃起しちゃうだろうね。キミはその勃起した姿でどういいわけしたの? できないよ、できないはずだ。男なら誰でもいいから挿入して欲しくてお尻がうずうずするよね。五月雨雄大におねだりして幻滅されたよね。違うの? 五月雨雄大と顔を合わせたくなくて逃げたのかな? それはそれで正しい選択だったのかもしれないね。痛みが長引くだけだよ。かわいそうにまだ振られていないと信じたいんだね」
自己完結しだした雛軋は俺の股間や尻を揉みだした。頭がおかしい。本当に関わりたくない。
クスリが身体に残っていたら確かに反応したかもしれない。
キシさんのおかげで他人に触れられる不快感しか感じない。
暗示がどうとか言われていたのでさっきの雛軋の言葉なども俺は精神的なショック以前にクスリのせいで受け入れやすくなってしまっていたのかもしれない。
幸い、体調不良はキシさんに治してもらっているので雛軋の狙い通りにはいっていない。
ともだちにシェアしよう!