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愛してるからこそ地獄行き 3
俺に吹き飛ばされた会計を見たからかニヤニヤとしていた悪趣味な庶務の双子は一転して真面目な顔で自分たちは悪くないと口にしだした。副会長なども口を揃えて哉太が誘ってきたのだと言った。書記が流していた映像を最初から見せてくれた。考えられないが確かに哉太が誘い文句を口にしていた。けれど哉太のキャラじゃない。
俺の知っている哉太はこんな風に男を誘わないし、不特定多数と性交渉をしようとしない。
だが、目の前のものに対して捏造だと言い切るほど俺も馬鹿ではない。
自分の信じたいものだけを信じるなんて無理に決まっている。
俺が知らないからといって哉太の姿を否定したくない。
許せないけれど目をそらしても今まで通りに過ごすことは難しいだろう。
「こうしてバレちゃったけど、サミーには清純派でいたかったんじゃないのぉ。あぁ、それとも彼氏に内緒でこういうことしてるのが燃えるとか。秘密とか悪いことって気持ちいいじゃなあい?」
会計のその言葉を否定しきれる材料を俺は持っていなかった。
いやらしい言葉を口にしながら絶頂を迎える哉太。
下品な言葉で興奮している哉太。
中出しされたものを力んでひりだしている哉太。
精液と涎と涙で顔面をべちゃべちゃにしながら恍惚としている哉太。
俺の知らない金宮哉太。
哉太はああ見えて人一倍プライドが高い。自分では普通だと言うけれどプライドが傷つけられる言動は封殺する。
自分の悪口は聞こえない。相手をしない。それが哉太のプライドの守り方。
俺が手を出したり守ったりすれば逆に哉太を傷つける。
だから、いつだってこの学園の中でどうすればいいのか分からなかった。
生徒会長になどならなければ良かったのかと思ったこともあるが、哉太のために俺が会長を辞退したとなればそれは哉太を傷つけることになる。強がりだとしても哉太が大丈夫だと言うのなら俺は守るためには動けない。
哉太のために動いてうれしいのは俺だけだ。プライドをへし折って惨めな思いをさせてまで俺は哉太を守りたくない。違う。自分を惨めな気持ちにさせた俺を哉太が嫌うと感じている。だから、俺は何もできない。哉太が好きだから哉太が必要としない行動をしたくない。嫌われたくないことを理由にして俺は当事者でありながら傍観者だった。
「人の嗜好はそれぞれですからあまり彼を責めないであげてください」
副会長が俺よりも哉太を知っているかのように口にする。
俺は哉太のことを何も知らなかったのだろうか。
抑圧された衝動がこういう行為に走らせたのだろうと会計は口にする。
この学園で俺は確かに哉太に我慢を強いていた。
何処かに捌け口を求めたくなる気持ちも分かる。
そして何よりも俺は哉太が好きだけれど哉太が俺を好きでいるのかは実のところ自信がない。
俺は一度哉太に振られている。兄弟だと、家族にしか見えないと言われた。それでも俺は哉太の恋人になりたかった。
この学園の中で哉太が俺よりも大切な相手を見つけることを恐れていた。俺から離れていくことに怯えていた。
無理矢理縛りつけた、結果がこれなんだろうか。
役員たちから哉太との関係を黙っていたことをそれぞれ謝罪を受けたが気持ちは全く晴れない。
哉太に話しを聞かないといけないだろう。
だが、きっと哉太はしらばっくれる。
弱い自分を見せたくないから。異常であるのがイヤだから。
俺のことを弟のように思っている哉太は自分の趣味が特殊だと自覚があるのなら隠そうとするだろう。俺を巻き込まないようにしようと思うはずだ。
俺が哉太の趣味を受け入れるだけの度量のない人間だと思われている。
汚名を返上しないとならない。
浮気は浮気なので謝ってもらいたいが哉太の趣味を否定することはしたくない。
俺の反応が拒絶だったらそれこそ「だから黙ってたんだ」ということになる。
冷静になれないが俺はどんな哉太でも愛してるから受け入れたい。
俺しか知らない哉太を、いや、俺すら知らない哉太を知っている人間は目をえぐり出しても足りない程にムカつくけれど哉太を望みを叶える道具であって人間じゃないと思い込めば何とか気持ちを落ち着いてくる。
物凄く努力して俺は哉太と相対した、だが結果はやっぱり芳しくなかった。
哉太は俺の愛を信じてくれない。
「――俺のことが好きなら地獄に落ちてくれ」
その言葉が俺には最終宣告に聞こえた。
確かにあった二人の絆が断ち切れそうなイヤな予感。
哉太は言った。
映像を見て、誰が何をしてどんな行動をとっていたのか一覧にまとめろと正気とは思えないことを口にした。
ただでさえ恋人が他の誰かと関係があるという事実に傷ついている俺になんてことを言うんだろう。
哉太は終わるまで俺と顔を合わせないという。
望まない形で哉太の趣味に踏み込んだせいだろうか。
Mでもなんでもない俺からすると、このお仕置きは高度すぎる。
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