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愛してるからこそ地獄行き 4

 俺にはハードルが高すぎるがやらないわけにはいかない。  出来なければ哉太が俺から離れて行ってしまう。  それはあってはいけない。それだけはイヤだ。    一緒に生きてきた。今更一人になれない。なる気がない。  それは俺だけの都合かもしれない。でも、これは哉太がくれたチャンスだ。    どうにも動画を直視する気が起こらない。  とはいえスマホでゲームを起動してみるが発言もできない。  人と関わり合いになろうという気が起こらない。  それなのに一人は淋しいと思っている。  自分の書き込みじゃない流れていく文字に向こう側にいる誰かのことを思う。  俺がこんな思いをしている中でも普通にゲームして楽しんでいる人間がいる。    毒づきたい気持ちになるけれど愚痴れることでもない。  この問題は自分だけのことだ。誰に相談できるものでもない。    書記から貰った動画データをスマホからパソコンで見られるようにする。  大きな画面で映し出される痴態は心臓が痛くなる。  寮の役員室で見た時はショックが強くてきちんと直視したとは言い難い。  スマホの動画も薄目で見てなんとか哉太を理解するように努めた。  もうそれでいいじゃないかという気持ちが強い。  もう分かったから許してくれと言いたい。    哉太の望み通りにしたいという気持ちはある。  ちゃんと頑張りたいところだけれどキツい。    普通なら興奮するだろう哉太の喘ぎ声が俺の心を突き刺す凶器になる。  その声を上げさせているのは自分じゃない。哉太を抱いているのは自分じゃない。  画面に映る指も腕も足も体も全部が自分じゃない。    苦しくて泣けてきた。  俺は恋人からどうしてこんな仕打ちを受けないといけないんだろう。  おかしいんじゃないだろうか。  遠回しに別れたいと言われているんだろうか。  でも、離れたくない。別れたくない。愛してるから哉太と向き合いたい。    音量を消して吐き気と悲しみをこらえながら哉太のあられもない姿を見続ける。  誰と哉太が何をしたのかルーズリーフに書きだしていく。  地獄の作業だ。  少ししてから違和感に気が付いた。  編集してあるのは当然なのだが何かが腑に落ちない。  気になった俺は違和感を探すために映像を倍速で見た。  映像の対象が哉太であることを頭の隅に押しやる。    奇妙な感覚のまま俺は哉太が爪を剥がすシーンに出くわして納得する。    爪を剥がすシーンの前にすでに爪は剥がされている。  何度も爪を剥がしているのだと納得するには違和感が大きい。  変な汗が流れる。  口の中が渇く。    最初から音を消して見ていくと映像の順番のおかしさに気づく。  爪の剥がされている位置で時系列を確認して映像の順番を変えると話の流れが違うようになる。  音を戻してみると普通だったら起こらないようなおかしな会話をしている。  以前の会話がリセットされたように会話を繰り返している。    血が滲む指先を気にせずに絆創膏を巻かれた指先で乳首をいじる哉太。  指先の痛みが哉太を快感に導いているのだろうか。  混乱しながら血の具合でもまた映像の本来の順番が特定できる。    とりあえず改めて動画の順番を変えて編集しなおしてみる。  そのぐらいソフトがあるのですぐに出来る。  俺が使っているのは哉太のパソコンだが学校の備品だ。  学校から映像編集、画像編集そういったソフトがインストールされたパソコンが支給されている。    何の意味があるかは分からないが正しい順番にしないとならないという使命感があった。  哉太のことを考えるよりも動画をただのパズルのように見なす方が精神的にダメージが少ないからかもしれない。    順番を変えて早回しで確認するとやはりこの映像がおかしいというのはよく分かった。  二時間半ほどの映像は違和感のかたまりだ。  時系列が違うだけではない。    意識を集中するために音を消したまま被写体が哉太であることを考えずに見る。  ここが何処で、いつ撮影が始まって、いつまで撮影をし続けたのか。  これはドラマでも何でもない。手ブレもあるし素人動画だ。誰が撮影したんだ。    知りたくない事実が目の前にある気がして落ち着かない。  胃がしくしくと痛む。    いつの間にか俺は動画を見ながら哉太との過去を思い出していた。  哉太は怖いものを怖いと言わない。  痛いことも我慢してしまう。  それは多分、俺がいるから。  俺がいるから意地を張ってしまう。    わかっていた。俺がいなければ哉太は自由になれる。  俺なんかいなければ良かった。    でも、そうやって泣けば哉太はそんなことはないと否定する。  怖いこと痛いこと辛いことそれよりも俺のことが大切なのだと言ってくれる。  それが嬉しくて俺はずっと甘えていた。  

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