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愛してるからこそ地獄行き 6

 何が間違いだったんだろう。    この学園に入学したことか。  この学園に馴染めないと気づいた時に見切りをつけなかったことか。    俺が哉太の近くで生きている事だろうか。    好きで愛していて傍にいたくて離れていってほしくなかった。  初等部のころにかわいいとか天使とかお人形さんみたいだとか構われるのがイヤだった。  俺が嫌がるから哉太が庇ってくれる。哉太はいつだって俺のことを考えてくれる。それが嬉しかった。  周りが哉太を邪魔扱いする意味も分からなかった。俺はずっと哉太の後ろに隠れて人とコミュニケーションをとることを拒んでいた。それは哉太に全部を押し付けて一人で平和な居心地のいい場所にいたということかもしれない。    俺には哉太がいればいい。哉太もそう思っているだろうし、周りだって今更それを壊そうとしないと考えていた。  違っていた。誰も俺と哉太のことを放っておいてくれない。    泣きながら自分の吐瀉物の始末をする。  哉太がどんな気持ちでいたのか考えると胸が張り裂けそうだった。  俺は哉太を追い詰めることしかしなかった。    チャイムが鳴った。    哉太が帰ってきたにしては連続して鳴らされるチャイムの音がおかしい。  そもそも鍵を持って出て行っただろう。ここは俺の部屋ではなく哉太の部屋だ。  学園の中に友達などいない哉太をこうして訪ねてくる人間がいるとは思わない。  居留守を使おうとして玄関に向かう。    哉太を訪ねてきたのは庶務の双子だった。ニヤニヤとした笑いは俺を見て引っ込んだらしい。  双子は顔を見合わせて少し考えた後に踵を返そうとする。   「おい、何か言うことあるだろ」    俺の声は泣き叫んで掠れている。吐いた匂いがするだろうし、顔は泣いたのが分かる状態かもしれない。  それに触れることなく双子は怯えたように「こっちに雛軋が来たかと思って」と小さな声で口にした。  図体に似合わず双子は小心者だ。俺を前にすると表情をこわばらせることが多い。それまで楽しそうに話しているのに俺の前では口をつぐむ。これもまた立派なイジメだろう。いつも俺は嫌われている。   「雛軋って?」    怯えて震えながら今すぐ逃げたいという顔をする双子。巨体なのに根性がない。  玄関先で這いつくばって、すみませんごめんなさいと口にする双子に「雛軋って?」と俺は繰り返す。   「すぐにアイツに連絡とりますからっ」 「俺らは何も知らないんすよ。人数合わせに呼ばれただけで」 「ちょ、ちょっと、ほんと、待ってください」 「俺らマジで反省してますんでっ」     俺が玄関に置いていた靴を履くのを見た双子は声にならない悲鳴を上げた。  涙を浮かべながら「勘弁してください」「そんなん死んじまう」と顔を青白くしながら言った。   「俺に言うことあるか?」    靴の感じを確かめるようにその場で足踏みをする。悲鳴を上げる双子は自分たちが俺に敵わないことを知っている。  初対面は初等部か中等部かは忘れたが格闘技か何かの大会だ。  双子自身は以前から俺を知っていたらしいので初対面という言い方もおかしいかもしれない。  外見が少女然としていた俺は同性に舐められることが多かった。押えこまれて好きにされるなんて、気持ちが悪いので自衛として身体を鍛えるのは苦じゃなかった。哉太も一緒だったので強くなるのは単純に楽しかった。  強くなったら哉太が頼ってくれるかと思ったが、器用で何でもできると拗ねられた。  

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