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好きな相手を好きな人 2
まさかの副会長だ。話をしておいてよかったというべきか、どうしてここに来たんだと心配するべきか。
どちらにしても上手く舌が回らないので何も言わないけれど。
「親衛隊二人、動かないでください。会計の顔に傷がつくのはイヤでしょう」
まったく関係がないはずなのにわんわんメモの「結構な眼鏡」という一文を思い出した。眼鏡スゴイ。
少し後ろを振り向くようにして「お願いしますっ。……えっと、お弁当屋さん?」と口にする副会長。
現れたのは何と雄大ラブの不良だ。
バイトはどうした。
ランチタイムは終わったかもしれないけれど小料理屋の制服のままで何しているんだ。
普通に考えれば副会長と一緒に助けに来てくれたと思うべきかもしれない。
けれど、彼は俺を嫌っている人間だ。雄大が好きだから俺を嫌っている。わんわん情報にもそう書いてあった。いや、わんわんメモには食べ物のことしか書いていなかったが嫌っている人間に分類されて情報をもらった。
「やっちゃってください」
武闘派の人間を雇ってけしかける三流の悪役みたいだ。
自分は手を汚さないという空気は正しいのかもしれないけれど微妙に格好悪い。
「何で二人が仲良しになってるのかさっぱり何ですけどぉ」
ハサミを首に向けられながら会計はヘラヘラ笑った。
馬鹿にしているのか煽っているのか。
目を細めた不良は「おれは、五月雨雄大が好きだ」と会計の横に並んで静かに口を開いた。
副会長としては親衛隊をボコボコにしてもらう用の戦闘員として連れてきたみたいなので「えぇ、打ち合わせと違う!?」なんて情けない声を出している。せっかくの優位が引っくり返るから、虚勢だとしても余裕の顔をしていろよとツッコミをいれたい。いいや、この二人を置いて逃げたい。馬鹿っぽい。
「五月雨雄大が、あの人が好きだけど……あの人に好かれるソイツのことが憎いかっていうと違う」
「知ってますよ!! 今はそういう話じゃないでしょ。状況を見てくださいっ。さては、あなたはおバカさんですね!!」
流れるようなツッコミ。俺の言いたいことを代弁してくれたので少しスッキリ。
アホの子と思っていた副会長が状況次第でこんなにも使える。
俺は少し感動した。
食べたら食べっぱなしの雄大が流しに食器を下げることを覚えた時ぐらいに感動した。
そして、不良は何を言いたいんだ。コイツらが説教なんか聞くわけない。
俺の話を全く聞かないでこれから輪姦パーティーしようとしてる鬼畜どもだ。
常識なんか今更無意味すぎる。
「あの人に好かれてることの意味を何も分かってないことがムカついて嫌いだけど憎んでいるわけじゃない」
「あなたは一体何を言いたいんですかっ!!」
「痛いっ、痛いっ! 副会長、俺の首にハサミの先が刺さってるからぁ」
副会長が興奮して会計の首をハサミでツンツンしているらしい。
興奮で震えているのでグサッといきそうで怖いのは分かるが血も出ていないのに大袈裟だ。
それにしても不良の口にする雄大に好かれる意味ってなんだ。
雄大に好かれると周りから嫌われるのがセットという話なら文字通り痛いぐらいに知っていると自分の手を見つめる。
グローブに覆われているけれどキシさんに治療される前の指先の痛みは忘れられるものじゃない。
頭に響くような電気的な痛み。少し動くだけで痛くて仕方がなかった。殴られたり蹴られたりした痛みとは違う種類の痛みに俺は耐えられなかった。
「好きな相手の好きな人を傷つけても何の意味もない。相手に見て欲しいならまず自分を磨くべきだ」
正統派なことを言う不良。本人が雄大に好かれるために料理の腕を磨いてる人なのでなるほど納得だけれど言うべき相手が間違ってる。会計は不良とは違うタイプの思考回路の人だから絶対に話しは通じない。時間の無駄だ。
「磨いたよっ!! 俺はずっと見てもらえるように役員として頑張ったし、見た目も頭もエッチだってタチもネコも頑張った! 頑張って何だって対応可能にしたんだからぁ。二輪挿しも露出プレイもスカトロもハードSMもなんでもできるし!! 五月雨雄大が! サミーが好きになってくれなくても、せめて俺を見てくれるならどんな変態なことだって耐えられるっ!!!」
残念ながらウチの雄大は変態プレイなんて知らない純真な天使だ。俺で童貞を捨てている無垢で無知な雄大にどんなエッチも対応可能だと口にしても興味を示すはずがない。
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