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好きな相手を好きな人 7
不良が雄大の外見に惹かれているわけじゃないことは知っている。見た目通りにそこそこ強いのも知っている。
でも、同時にコイツは知らないだろう。俺のことを知りもしない。喧嘩はしないけれど雄大と一緒に身体を鍛えていたので弱いつもりはない。勝てるかは分からないけれど雄大に負けるレベルなら俺に圧勝できると思わないで欲しい。
「饒舌じゃんか。……いつもそうしてたらいいだろ。自分が舐められていることを分かってんのに放置して、だから――」
説教なんか聞きたくない。それがたとえ正論だとしても。ウンザリした気持ちで奥歯を噛みしめる。
俺の気持ちをくんだわけでもないだろう副会長の悲鳴のような「どういうことですか!?」というひっくり返った声。
何に反応したのかと思ったら俺の昨日のことの説明に驚いているらしい。副会長は一人、目を見開いている。
「あはっ、そっか……なぁ~んで君たちが知ってるのか分かんないけど、副会長は何も知らないもんねえ。でも、知らなかったら無罪ってわけでもないでしょう? 副会長だっていい思いしたんだから同罪だよぉ。五月雨雄大と金宮哉太のお別れ会に参加したじゃなあい」
ペラペラしゃべる会計に「クスリの効き目が弱かったかも」と情報部の部長が口にする。
目に映った機材を適当に破壊して不良は会計を引きずっていく。俺の靴はきちんと玄関に置いてあったので履くが会計はスリッパのまま何処に連れていくのか引っ張っている。
「雛軋と会計の親衛隊の部屋でもとりあえず同じようにPC関係を壊しておけば多少はマシだ」
「……あいつらのケータイは良いのか?」
「良いか悪いかで言ったら放置はよくないけど万が一の場合、場所の特定が出来なくなるから取り上げるなら最後にした方がいい」
情報部の部長と不良の会話を聞いているとどうやら情報部の部長は部長権限で学園が支給している携帯端末の位置情報を取得できるらしい。つまり俺がチャットで返事をしないから部長権限を行使して俺のスマホが庭園に落ちているのを発見。その近くにはパンの入った袋。
パン屋には販売の記録が残っている。
何時にどのパンが売れたのか調べればすぐにわかる。
買ったパンは袋の中を見ればいい。
一個や二個ではパンからの特定は難しかったかもしれないが雛軋は双子の分のパンを買っているように見えた。
多くの種類を一回の会計で済ませているとなれば情報を見つけるのは難しくはないだろう。
大体の生徒は学園内での品物は電子マネーで決済を済ます。情報部の部長の権限がどの程度か知らないが購入者を雛軋に特定するだけの個人情報を手に入れたらしい。そして、雛軋は俺の隣の席だというのも知っているから見当たらない俺が何処にいるのかも想像がつく。
そして、自分だけでは太刀打ちできないので不良に声をかけ、雛軋が会計のところにいるのを確認したので副会長を使った。
副会長に対して会計が警戒をしていないという前提で玄関を突破した。
もちろん、危険を考慮に入れて対策というにはお粗末なことをしたようだけれど、問題はそこじゃない。
汗を流して苦しそうにしている副会長の胸に触る。
セクハラだとでも言われるかと思ったがその反応もない。
素人判断だけれどあばらにヒビか何かが入ったのかもしれない。
それなら呼吸するたびに痛む。痛みに耐性がなさそうな副会長がへとへとになるわけだ。
あばらや鎖骨はちょっとした衝撃でヒビが入ったりするが理解不能な痛みだと思っていると怖いかもしれない。
副会長が痛みを訴えてこないのは空気を読んでいるからか病院という単語が思い浮かばないからなのか。
「俺はずっとお前を敵視してたけど、コイツに言われて気づいた」
副会長の様子も無視して不良は語る。
きっと悪い奴じゃない。だから、知り合いでもない情報部の部長の言葉を聞いたりできる。
「好きな相手の好きな人を傷つけるなんて間違ってる。同じ相手を好きなら分かり合えるはずだって……コイツの言葉に感銘を受けた」
それは今朝に霧雨さんがゲームのチャットで口にしたことと似ている。
情報部の部長も見ていたのかもしれない。
霧雨さんの言葉だと思うのに不快さを覚えるのはなぜだろう。
あの時は心がじんわりとあたたまる気さえした、それなのに今は不快感でいっぱいだ。
「どこまで何を聞いているのか知らないけど、俺の好きな雄大とお前の好きな雄大は違う」
「はあ? ……おまえはさぁ、そんな風に自分だけが」
「俺だけが分かってんだよ。お前たちが雄大を分かっているなんて口にするな。吐き気がするだろ」
見せ続けられた集団レイプ動画が俺の精神を蝕んでいるのは自覚している。
でも、だからこそ否定したい。否定しないとやっていられない。
「冷徹な生徒会長も天使のように可憐な容姿だった少年も異種格闘技で最強の称号を手に入れた人間凶器も五月雨雄大の一面でしかない。……お前たちは認めなかったんだ。雄大を自分の物差しで測ってそれ以外を切り捨てようとした」
俺は周囲に受け入れられないことを理解して、それは割り切ることが出来た。
それならある程度まわりと上手く折り合いをつけられたはずだ。それなのに出来なかった。
まわりが俺を拒絶している以上に俺がまわりから意識をそらした。
「……お前たちは、雄大を好きだと口にする、お前ら全員、ずっとムカついてたんだよ。口に出すとナルシーみたいになるから言いたくなかったけど……雄大は俺を好きだ」
俺の言わんとすることが伝わっていないのか眉をひそめる不良。
わからないならそれまでだ。別に理解を求めてない。これは俺の感情の吐き出しに過ぎない。
「俺は雄大が好きだ。お前らなんかの数億倍は雄大を知っていて雄大を好きだから言える。五月雨雄大を好きだとか愛してるとか尊敬してると言いながら、雄大が何より大切にしてる感情を否定する。お前たちのことがムカついて仕方がなかった。雄大を好きだなんて大嘘じゃないか」
雄大が大切にしている感情、俺に向ける思いだ。
俺が言うことじゃないが雄大の中で俺が占める割合は大きい。もちろん逆も言えることだ。俺たちは揃ってお互いがお互いの中でとても大きなものとしてある。
双子の兄弟のように一緒に育った。
俺と雄大はたとえ恋人同士にならなかったとしても、お互いの人生の中で重要な部分を占めているもの同士。
そのことを他人にとやかく言われるいわれなんかない。
まして、俺に起こったことの理由に使われたくもない。
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