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銃弾の装填 1

 助けてもらっておきながら喧嘩を売るようなことをした俺に意外にも不良は悪態をつくこともなかった。  こんなことを言われるなら助けなければ良かったなんて言われると思っていたがそれもない。    俺が癪に障ったのは不良も情報部の部長も完全な安全地帯にいるからだ。  対岸の火事に対してああすればいい、こうすればいいなんて誰でも言える。  当事者でないクセにしたり顔で正しいことを言われたくない。正しさは俺を救わなかった。  正論がまかり通るのなら俺の周りはこんなことになっていない。    気まずい空気の中、雛軋の部屋に向かう。    謝る気にはならないのは気分が悪いからだ。  異常な状態にいる俺に正論をぶつける不良に苛立つ。  同時に俺は自分の感情が八つ当たりに近いとも頭の隅で理解していた。    覚悟していたといっても雛軋にいいようにされたくなんかない。  防げたのは彼らのおかげだ。わかっていても石を飲み込むような重苦しさがある。    情報部の部長から返してもらったスマホを確認する。  放置したことでロックがかかったはずなので中身を見られたりはしていないだろうが人の手に自分のスマホが渡ったのは気持ちが悪い。  ゲームにログインするとチャットに不穏な書き込み。  書き込みは自分がチャットに書き込まなくても見られるが自分のログイン前のログは参照できない。  どういう会話の流れでそうなったのかわからないが「しにたい」とは何とも不穏。  ゲームなので気軽に言えるのかもしれない。  朝に話した相手ではないし、冗談なら変に食いついても引かれるだけだ。  だが、無視されているのかタイミングが悪いのか誰も「しにたい」に反応していない。  名前が「鉈好き」なんていう危ないやつだから避けられているんだろうか。  それとも、わんわんが書きこまないとみんなROMに徹しているのか。  俺が見た時はわんわんありきで会話をしていた。わんわんの疑問に答えたりわんわんを弄ったり。   宮田:どうかしたんですか? 宮田:レアが出なかったとか?? 宮田:ご自慢の鉈が錆びた?      反射的に書き連ねていく。  ゲームはずっとゲームで楽しい雰囲気でいて欲しいなんて勝手なことを思った。   鉈好き:大切な人を傷つけた 鉈好き:生きていても仕方がない    タイムリーと言えなくもない話題のせいで俺はどうにも皮肉な気持ちになった。  大切な人を傷つけて死にたいなんて随分と幸せな脳味噌をしている。  自分のことが大好きなナルシスト野郎だ。  嫌味でもなく「自己憐憫に浸っちゃってる系?」と思ったことをそのまま吐き出した。  あっさりと「まあ、そうかも」と返ってきた。  大切な人よりも大切な人を傷つけた自分の傷を気にしてる。  イライラをぶつけるように俺はチャットで発言した。  雛軋の部屋に向かって歩きながらなのでちょっと危ない。  泣きながらとぼとぼ歩く副会長、不良に引きずられる会計、スマホと俺をチラチラ見る情報部の部長。   鉈好き:でも、自分がいるだけで相手を傷つけてそうで鬱 宮田:鬱って言ってるやつは鬱じゃない理論かw    本当に悩んでいる相手に対して酷い返しかもしれないが瞬間的に雄大を連想して苛立った。  事実に気づいたら雄大はきっと落ち込んで落ち込み過ぎたら自殺なんていう馬鹿なことをするかもしれない。  それは俺を傷つけたことに傷ついているだけじゃなくて、俺から嫌われることが仕方がないと受け入れてしまうから。  俺に嫌われるぐらいなら消えてなくなりたいというのが雄大だ。

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