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第8話

 強引だったか、と少し逡巡したが、部屋に入ってベッドサイドテーブルに置かれたライトを灯す頃にはそんな迷いはもうどこかに消えていた。  ぼうっとオレンジの暖かな光が部屋を満たす。  レイはどこか怯えているかのように部屋の入り口に立ちすくんだままだ。リチャードはレイの手を引っ張ってベッドサイドまで引き寄せると、荒々しく抱き締めて唇を求める。  レイはリチャードの求めに素直に応じる。唇を離してリチャードがレイの顔を見ると、潤んだ瞳でじっと彼を見つめていた。  リチャードはレイをベッドにそっと押し倒す。相変わらず黙ったままレイは素直にリチャードにされるがままだ。リチャードはレイのシャツのボタンを一つずつ外していく。彼の白い肌が顕わになるにつれて、ほの明るい部屋の中では,彼の体がまるでアラバスター彫刻のように見える。リチャードは焦る気持ちを抑えて、ようやくシャツを脱がせると、床に放り投げた。透き通るような白い肌を目の前にしていると、段々自分は夢を見ているのではないだろうか、という気になってくる。レイの美しさは浮き世離れしていて、今自分が目の前にしている光景は、現実とはかけ離れた世界での出来事なのではないかと思えてきた。だが夢ではない証拠に、リチャードはレイに実際に触れている。今ここに確かに彼は存在してるのだ。リチャードはレイの首筋に顔を埋めてキスをする。レイはじっとしたまま身じろぎもしない。    リチャードは顔を上げて彼の様子を伺う。 「……レイ?」  レイは……寝ていた。  疲れがピークに達していたのか、本人は否定していたが、やはり酔っていたのか、規則正しい寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。 ――こ、ここまできてお預けかよ……  リチャードは笑い出したくなった。今までレイに答えを求められ続けて悩み、やっと自分の答えを出せる、と思ったのに、今度はレイがするりとリチャードの手をかいくぐって逃げ出したような気がした。  リチャードは立ち上がり、レイのシャツを床から拾うと、皺にならないようにハンガーに掛ける。レイのブラックジーンズも脱がせてやり、これは椅子の背に掛けた。そして自分のワードローブから白いTシャツを取り出すと、レイに着せてやり、ベッドに寝かせる。リチャードは自分もスーツを脱いでハンガーに掛けると、Tシャツとスウェットパンツに着替えて、レイの隣に潜り込んだ。  今まで気にしていなかったが、実は緊張していたのだろうか。妙な倦怠感を感じて、ベッドに横になった途端に急激に眠気が襲ってくる。  今夜は同じベッドに初めて寝たというだけで上出来なのかも、とリチャードは思い、レイの横顔を眺めながらいつしか深い眠りに落ちていた。

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