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第9話
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。英国はこれからの季節、少しずつ日が長くなり日が昇る時間も早くなってくる。
リチャードは目を覚ますと、ベッドサイドテーブルの上の時計を見た。時刻は6時半。今日はオフなのでゆっくりとまだ寝ていていい。二度寝を決め込むか、と寝返りを打ってから、隣にレイが寝ているのに初めて気付いて驚く。
――そうだった。昨日の夜……
思い出すと何やら恥ずかしいような、甘酸っぱいような、どう表現すればいいのか分からない程、落ち着かない気分になる。自分の手が届くこんな近い場所に、無防備な顔で寝入るレイがいる。
そっとリチャードは手を伸ばして、額にかかるふんわりと緩くカールした栗色の髪に触れる。
「んん……」
レイは身じろぎしてリチャードの方に体を向けると、突然ぱちり、と瞼を開けた。
二人は顔を見合わせたような状態になる。そのままじっとレイはリチャードの顔を見つめていた。
……と、思ったら突然がばっと、すごい勢いで半身を起こす。
「おはよう、レイ」
リチャードが声をかけると、驚いた顔のレイはきょろきょろと落ち着かない様子で周囲を見た後、震える声で「リチャード……なんで一緒のベッドにいるの? ここどこ?」と言った。
「え? なんで、って昨日の夜……」
「ま、まさか、僕、リチャードとセックスした?」
「いや、してない……けど」
「だよね? してないよね?!」
普段のレイからは想像できない慌てぶりに、リチャードの方が驚いて自分も半身をベッドから起こす。
「レイ、落ち着けよ。昨日の夜のこと覚えてないのか?」
「全然……何にも覚えてない……」
レイは右手で頭を抱えた。
「パブにいたのは覚えてるんだけど……マンチェスター警察から研修生が来た、って話したよね。その後ぐらいから記憶が飛んでる」
随分早い段階でレイの記憶が酔いのために飛んでいた事を知り、リチャードは自分の方が頭を抱えたくなっていた。
と言う事は、いつもと違って素直だったレイは、あれは素直だった訳じゃなくて、ただ単に酔っ払ってぼうっとしていただけだったのか、と改めて気付く。
「じゃあ、その後で俺に抱きたくないのか、って訊いたのは覚えてない?」
「そんなこと僕言ったの?」
「いや、言ったから俺レイをフラットに連れてきたんだけど……」
「信じられない。他にも何か変なこと言わなかった?」
「特に変なことは言ってなかったと思うけど?」
リチャードは思い返してみたが、どういうコメントが変な発言なのかがよく分からなかったので、あえて答えをぼかしておく。
「でも良かった。リチャードと初めてセックスしてて記憶なかったら最悪だもん」
レイは少しホッとしたようだった。
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