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11日目・執事の秘密
~瑞希side~
「行ってきます」
「「行ってらっしゃい、晴人/お兄様」」
日曜日の早朝。
世間では休日だというのにお兄様は十文字家に呼び出されてしまい、朝からスーツ姿で仕事に向かう。
私と虎牙さんは笑顔で手を振ってお兄様を見送る。
・・・まあ、そんな私もこれから仕事なんだけど。
虎牙さんは見送ると朝食の片付けを始めた。
私はジャケットに腕を通しながらテレビに目を通す。
(あ、事務所の先輩が出てる。)
「そういえば虎牙さんってお兄様のこと、どれぐらい知っているのですか?」
「え?」
虎牙さんはキョトンとした声を上げる。
「一緒に暮らして1週間ぐらい?なのはお伺いしましたけど、随分仲が良く見えたから」
「好きな食べ物とか、一人前の執事を目指していることは知ってるよ」
「・・・他は何かお聞きしてますか?」
「えっと、他にも何かあるの?」
私は目を丸くする。
お兄様の事、あんまり知らないのね。
(てっきりもう色々話してる仲だと思ってたのだけど)
「・・・何か、晴人にあったのか?」
虎牙さんは真剣な顔をする。
ここで『いや、何も無い』って言っても信じてはもらえないよね。
私が勝手に話していいことではないと思うけど、お兄様が信用してる相手だから大丈夫よね・・・。
「お兄様が潔癖症な事、ご存知ないですか?」
「晴人が、潔癖症?」
「しかも重度の」
私の言葉に今度は虎牙さんが目を丸くする。
「でも昔よりは落ち着きましたのよ?昔は食事さえ嫌がっていましたし。
まあ未だに手袋着用で他人が触ったものに素手で触るのに抵抗がありますし、他人が作った食事はお店のでぎりぎりって感じですけど。多分食べられないこともないってところかしら?」
家族とか信頼してる人のは大丈夫みたいだけど。
私は服装のチェックを全身鏡でし終えて、残っていた飲み物を飲み干す。
「多分って?」
「・・・もしかしたら誰も見てないところでやってるかもしれないわ」
私は自分の人差し指から小指を揃えて口の中に入れる真似をする。
それを見て虎牙さんは綺麗な顔を歪めた。
せっかくのイケメンが台無しだわ。
「だから、久しぶりに会ったお兄様が前より健康そうで安心しましたの。それと、来てくださったのが虎牙さんみたいな方で良かったですわ」
「・・・潔癖症は生まれつき?」
「いえ、中学生になる前ですわ」
「なった原因は?解決出来ないかな?」
「・・・軽いものには出来るかもしれませんが、解決は無理だと思いますわ」
「なんで?」
私は虎牙さんにこれ以上先を言ってもいいか迷い、黙り込む。
今さらだけど。
既にべらべらと話してるけど。
個人のさらに繊細な部分を私が言ってもいいのか。
(・・・虎牙さんなら大丈夫だと思うけど)
「瑞希さん、頼む。教えて欲しい。俺、少しでも晴人の力になりたい」
真剣な顔に私の心は揺らぐ。
そして、負けた。
「・・・お兄様には内緒にしてください。約束して頂けますか?」
「わかった」
私は虎牙さんに少し近づいて、まっすぐ見つめる。
夜空のような黒目に私が映っているのが見える。
「実は────────」
「・・・・・・・・・」
虎牙さんは私の言葉に身体が固まる。
「・・・ってもうこんな時間!?マネージャーから電話きてる!すみません、詳細はまた今度言いますわ!行ってきます!」
私は慌てて鞄を掴み、外へ出る。
「えっ、瑞希さんっ!」
「さっきの話、お兄様には秘密にしてくださいね?」
私は玄関振り返って人差し指を口に軽く当て『しーっ』とポーズをしてウインクをした。
そしてドアをバタンと閉めた。
「晴人・・・」
ロボットは傷つかない。
俺らは人と違って感情も痛覚もない。
だから俺は傷つかない。
「・・・おかしいな。どこか壊れたのかな」
瑞希さんの言葉を聞いた時、何も言えなかった。
固まる事しか出来なかった。
そんな俺の胸はきゅっと締め付けられたような感覚になり苦しく感じた。
『実は、初恋の人が死んじゃったのよ』
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