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10日目・妹公認
「お兄様、その方は・・・?」
目を丸くする瑞希は虎牙さんを見つめる。
「この人は僕の所に研修で来た西秋 虎牙さん。虎牙さん、彼女は僕の妹の瑞希だよ」
「瑞希さん、初めまして。俺の事は虎牙って名前で呼んでください」
「初めまして、瑞希です。私の事も名前で結構です。お兄様と被ってしまいますので」
瑞希は僕の腕にピタリと寄り添うぐらい近くに来る。
「この方、とても怪しいのですが大丈夫なんですの・・・?」
「大丈夫、とてもいい人だよ」
「そうですの。・・・ちなみにどれぐらいの期間いらっしゃるのですか?」
「あと3週間ぐらい」
「3週間!?」
瑞希の顔に、嘘でしょ!?と書いてある。
「(さ、3週間も・・・家なら二人っきりになれると思ったのに・・・!)」
「瑞希?どうした?」
「いえ、何でもありませんわ。お兄様」
瑞希はニコッと笑顔を浮かべる。
「一応確認ですけど、その方は信用出来る方よね?」
「とても口が堅いし約束は必ず守る人だよ」
「そうですの。お兄様がそこまで言うのでしたら安心ですわね」
瑞希はほっとした顔をする。
事情を知らない瑞希にとって、全く知らない人である虎牙さんは怖いだろう。
それに彼女は人々に夢を売る芸能人だ。
何か悪い事を流されてイメージダウンに繋がってしまうと今後に影響が出てしまうだろう。
「瑞希、何かあったら僕に言ってね」
「お兄様・・・」
瑞希は手を胸の前で組み、うっとりとした顔をする。
「結婚しましょう」
「急にどうしたの」
「晴人、彼女は妹でもありそういった関係なのか・・・?」
「違うから。虎牙さんも真顔で聞かなくていいから」
虎牙さんは「冗談だ」と少し笑う。
アンドロイドって冗談言うんだ。
・・・いや、言うか。今朝も冗談言ってたし。
「まあ、何はともあれ。瑞希 おかえりなさい」
「ただいま戻りましたわ。お兄様」
瑞希は腕に抱き着いてきた。
ピッタリと密着され、瑞希の体温がじわじわと移ってくる。
「晴人、瑞希さんと久々の再会なんだろ?俺が夕飯の支度とかしとくからゆっくり話でもしたら?」
虎牙さんは僕達をリビングの椅子に座らせると準備していたのか手際良く温めたカップにお茶を淹れ、紅茶を目の前に置いた。
「瑞希さん、好き嫌いはありますか?
食べたいものがあればそれを作りますが」
「好き嫌いは特には」
「わかりました。少し待っててください」
虎牙さんは笑顔でキッチンへ向かっていった。
「ねぇ、お兄様。あの方 他の人とは違う何かを感じるのですが?」
「ま、まあまあ、せっかくご厚意だからここは甘えよう?ね?」
僕は内心ドキッとしつつ、それを誤魔化すように紅茶を口に含む。
丁度良い温かさと紅茶の華やかな香りにほっとする。
瑞希は目を丸くして僕を見る。
「・・・お兄様はあの方を信頼していらっしゃるんですね」
「虎牙さんのこと?さっきも言ったけど信頼してるよ。・・・僕のことは置いておいて瑞希はここ数年どうだったの?」
「私ですか?」
瑞希はにっこりと笑顔を浮かべる。
「一時期 映画の撮影で海外に。その時にお母様の元へ寄りましたわ。お母様は相変わらず自由奔放な方で海外生活を満喫しておりましたわ。お兄様もお休みを取ったら会いに来るようにと言っておりました」
「そっか・・・わかった、ありがとう。行けるのはまだ先になるかな。学校はどう?蒼空 様とは順調?」
「学校の方も順調です。友達も沢山出来ましたし勉学にも力を入れております。
・・・でもあの女の名前は聞きたくもないですわ」
有無を言わさない圧を含んだ笑みを浮かべる瑞希に僕は引く。
「・・・そこも相変わらず、なんだな」
「努力をせず人の上に立とうとする方がおかしいしあんなのに仕えるなんて真っ平御免。土下座されてもお断りよ」
瑞希は間髪入れずに答える。
蒼空様は龍星の妹で瑞希と同い年の生粋のお嬢様だ。
瑞希も本来であれば僕と同じく仕える身としての教育を受けて、蒼空様のメイドになるはずだった。
けど、蒼空様 は甘やかされて育ってしまったのでワガママで人に頼りすぎてしまう方になってしまった。
そして何をしてもそつなくこなす瑞希は「自分より馬鹿な女に何で付かないといけないの?時間が勿体無いし、私の人生なんだから時間もお金も私に全て使いたいわ」と拒否。
それを聞いた蒼空様は案の定憤慨。
ことある事に瑞希にいちゃもんをつけたり突っかかるらしいが・・・でも大丈夫そうで良かった。
「お兄様は大丈夫ですか?あのワガママ兄妹にこき使われているのではありませんか?」
「大丈夫だよ。なんとか仕えられてる状態だけど、蒼空様も最近大人しいから」
僕は瑞希と比べて器用じゃないから、と苦笑する。
この前、龍星になにかお願い事をしていたのをちらっと見たけど断ってたっぽいし気にしなくてもいいよね。
「このままずっとあの女が大人しくいてくれたらいいのですが」
「蒼空様ももう大きくなったし幼稚な事はもうしないと思うけど、汚い言葉を使わない」
「申し訳ございません、お兄様」
瑞希はムスッとする。
そこでタイミング良く虎牙さんがお盆を片手に現れる。
「お待たせ。夕飯出来たからどうぞ召し上がれ」
「ありがとう、虎牙さん。今日も相変わらず美味しそうだね」
目の前に置かれたお皿にはサーモンとほうれん草のキッシュ、白身魚のフライ、アボカドとレモンのサラダ、コンソメスープがお洒落に盛り付けてあった。
香りと共に湯気立つ料理に瑞希も顔を綻ばせる。
「それじゃあ食べようか」
「ええ、頂きます」
瑞希はさっそくキッシュを口に運ぶ。
そしてふにゃっとした笑顔を浮かべる。
「・・・虎牙様、でしたっけ?もしかしてお兄様にいつも朝ご飯も作ってあげてたりするの?」
「自分では食べないって言ってるからね。俺が作って食べてもらってるけど」
瑞希はぐっ!と親指を上に突き出して褒める。
「素晴らしいですわ!虎牙様、お兄様をこれからも宜しくお願い致しますね!それと明日から私の朝ご飯も宜しく頼みますわ!約束ですから!」
虎牙さんと僕は一瞬ポカンとしたが、すぐに笑顔になった。
「美味しいご飯作っとくから期待してて?」
虎牙さんも自分の席につくと食べ始めた。
「お兄様、先程は失礼致しました。撤回致しますわ。虎牙様の事、大切にしないとですわね」
美味しいご飯に上機嫌な瑞希の変わりように僕は思わず笑いをこぼした。
「(虎牙様、虎牙様!虎牙様が来てから今日までのお兄様のこと 教えて頂けます?)」
「(瑞希さんは晴人の事 本当に好きなんだな)」
「(ええ、敬愛しておりますわ!)」
「・・・2人とも何をひそひそ話してるの」
約束3・・・ご飯は一緒に食べること
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