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13日目・対面

「っ!」 ドンッと僕は龍星を突き飛ばし、ソファから離れる。 今、何を・・・ 「ぅ・・・!」 急激に悪寒と猛烈な吐き気に襲われる。 (いやだ、こんなの。汚い・・・!) 僕は自身の喉を掴んで、こみ上げてくるモノを抑え、主に向き合う。 落ち着け。落ち着け落ち着け。 今、仕事中だろ。 自分を出すな、耐えろ。 「何をしているのですか、龍星様っ・・・!」 苦しい。痛い。 じわり目尻が滲む。 僕は突き飛ばした龍星の肩を掴んで引き上げる。 「ハル」 ゆっくりと昔みたいに優しい声で呼ばれて、反射で肩が跳ねる。 けど、ぐっと手に力を込める。 「自分が何をしたかおわかりですか。龍星様はこの家の未来を背負う方で、貴方には沢山の味方がおります。ですが、それと同じぐらい隙を狙って龍星達を墜そうする人もいるのですよ。 今もどこで誰が見てるかわからない状況なのですよ。こんな事1つで今まで龍星様が頑張って築き上げた物を一瞬でないものにされるんですよ。おわかりですか」 僕は、肩で息をして言う。 龍星は『軽薄・・・』と小さく呟くとフッと小さく笑った。 「・・・何がおかしいの」 「オレだって初めは気のせいだと思った。 距離を置けばまた戻れると思った。 こんな事を思うのは、オレと関わりがある奴がお前しかいないからだと思ってた」 龍星は僕の手に自分の重ねて、肩から剥がす。 そして、大切そうに大きなその手で包み込まれる。 直に体温が伝わり、堪えていたものがまた溢れそうになる。 「だから友達と呼べる存在も作った。面倒だと思ってた生徒会にも入ってもっと多くの人と関わるようにした。でも違った。どれだけ他の人と仲良くなっても、お前と距離を置いても近くにいた時よりもっと気になって・・・日に日に膨らむだけだった」 僕の事を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。 僕はグイッと胸を押すがさっきとは違い、今度はビクともしなかった。 つぅっ・・・と冷や汗がこめかみを伝う。 「お前に嫌われようと酷いことも沢山言った。でもお前はそんなオレにも文句言わず態度も変えず、ずっと側にいてくれた」 「それは・・・私は龍星様の執事です。 それを差し引いたとしても私達は幼馴染で・・・」 「そんなこと、わかってる。それにお前の中にアイツがいて、お前には後にも先にもアイツしかいないと思ってた。だからずっとこのままでいいと思ってた。でも・・・」 僕の顎を掴み、上を向かせる。 目の前には今にも泣きそうな顔があった。 薄ら揺らぐ碧眼が僕を映し出す。 「でも、他のやつに取られるぐらいならオレは・・・」 「ちょっ、龍せ・・・!」 僕の顔に影が落ちようとしたその時、いきなりぐんっと後ろに引っ張られ、何かに密着するように抱き寄せられる。 そして、龍星から隠すように厚い胸板に顔を押し付けられる。 「十文字 龍星様、でしょうか?」 「「は?」」 低い声に僕はパッと顔を上げる。 そして、ポカンと口を開ける。 「彼に触れないで頂けますか? 貴方が気安く触れていい方ではありません」 そこにはいつもの笑顔はなく、代わりに怒ったような顔があった。 突然の事に僕は声が出ず、金魚の様に口をパクパクとしてしまう。 動揺を表に出してしまうだなんて執事としてまだまだだ。なんてどこか冷静な自分がそんな事を思うが今はそんな事を思っている場合ではない。 「・・・どこのどいつかわからねぇが、執事の分際で無断でこの部屋に入ってくるな。コイツ以外に許した覚えはない」 「失礼致しました。ですが、晴人の安全と幸せが私の願いであり私の務めですので」 彼は淡々と言い放つと、僕に顔を向けて安堵の笑みを浮かべた。 「すぐに助けられなくてごめん。一緒に帰ろう?」 「・・・お前が『香山虎牙』か?」 今度は龍星が険しい顔になった。 「馴れ馴れしくハルに触るな」 「馴れ馴れしく触れていたのは貴方でしょう。いくら主人だとしてもしてもいい事といけない事ぐらい存じ上げているはず。特に晴人とは付き合いが長いとお伺い致しましたが・・・」 虎牙さんは少し黙って僕から背中から腕を離し、その手で今度は僕の耳を塞いだ。 『────?──、──。』 『────!』 ・・・じっと虎牙さんの唇の動きを読もうと見つめるが、なんと言ってるのかはわからない。 『─────。 ───、───────。』 『・・・・・・!』 『・・・────。────。』 『────』 会話が終わったのか、パッと手を離された。 龍星の口が『ヤメロ』と動いていたように見えたけど、何を止めるんだろ。 出て行け、という意味だろうか。 「晴人、帰りましょう。今日の仕事はもう終わりですよね?十文字様も今日はもう帰っても大丈夫と仰っておりましたよ」 「・・・でも・・・」 僕は龍星の方を見ると、龍星はさっと顔を逸らした。 「今日はもういい。・・・あと、悪かった。でも今日言ったことを取り消すつもりは無い」 「・・・かしこまりました。」 「それでは失礼致します、十文字様。どうぞ、ごゆっくり」 僕は虎牙さんと部屋を出る。 そして、すぐにドアを閉めると虎牙さんは小さい声で聞いてきた。 「晴人、真面目に聞くんだけど。俺が運んだろうがいい?それとも一旦休む?」 「・・・ごめん、もう無理」 僕はずっと堪えてきた吐き気が一気にこみ上げ、口を抑える。 虎牙さんは倒れかける僕の背中に腕を回して支える。 (虎牙さん、泣きそうな顔してる・・・) そこで僕の意識は途絶えた。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 「特に晴人とは付き合いが長いとお伺い致しましたが・・・」 俺はそこで晴人の耳を塞ぐ。 もう晴人は知っているとは思うが、なぜか聞かせたくないと思ってしまった。 『彼のこと好きなんでしょう?俺なら絶対に、そんなことしない』 『お前には関係ないだろっ!』 どこのどいつか分からない得体の知れない奴なんかに言われたくない。とでも言いたいのだろう。 まあ確かに君達(人間)からしたら得体の知らない物で間違いないけど。 『そんなに乱暴にしたいなら私が相手をして差し上げます。大丈夫ですよ。私、貴方より確実に上手く、悦んで貰える自信ありますから』 『・・・・・・・・・!』 ビクッと肩を揺らす彼にクスッと笑う。 『・・・冗談です。貴方を相手にするぐらいなら真っ先に晴人を抱きます』 『やめろ。そんなことしたら絶対許さねぇ』 腕の中でじっと俺を見つめる晴人をちらっと見る。 (こんなに怖がってる人にそんなことする訳ないのに。それより・・・) 布越しに感じる体温、鼓動、息遣い・・・。 いつも通りに振舞っているつもりだろうが、顔色が悪い。 早くこの場から去らなければ。 (ごめんね。今助けるから)

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