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14日目・初恋物語
『ハルちゃん、大きくなったらユキをおよめさんにしてね?』
シロツメクサで作られた花冠を頭に乗せ、笑みを深くする彼女は無邪気に僕の手を取る。
小さくて暖かい白い手を僕はぎゅっと握り返す。
『うん、やくそくする!大きくなったらユキちゃんとけっこんする!』
『ハルちゃん、大すき!』
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「・・・っう」
喉がヒリヒリと痛い。
声が思うように出ない。
見慣れた光景の中、横たわっていた僕はゆっくりと身体を起こす。
いつの間にか家に帰ってベッドで寝ていた僕は、Tシャツにズボンとラフな格好に着替えていた。
(なんだか懐かしかったけど・・・夢?)
僕はぼーっと手元に視線を落とす。
(あれからどうなったんだっけ・・・)
「・・・晴人、起きてる?」
コンコンとノックをしてお盆片手に虎牙さんが姿を現す。
「顔色、良くなって安心した。
どこかまだ優れないところはある?」
じっとこちらを見つめる虎牙さんの瞳孔が一瞬大きくなったように見えた気がした。
「本当によかった。あれから晴人の執事長さんが来てくれて体調が良くなるまでってお休みくれるって」
「・・・そっか」
でも、蓮様の誕生日会までには治さないとな。
・・・もう、行けるかどうか分からないけど。
「晴人、飯 作ったけど食べられそう?1口でもいいから」
(今食べたら吐きそう・・・。)
僕は首を横に振るが、腹の虫が小さく鳴ってしまった。
「お腹鳴ってるけど」
「・・・精神的に、空いてない」
「でも何か腹に入れないと、良くなるもんもならないよ。肉体的に空腹なら尚更何か食ってた方がいいと思うけど」
虎牙さんはスっとお盆に乗っている容器から少し掬ってスプーンを僕に向ける。
「一口でいいから、空腹だと薬飲めないよ」
湯気と共に優しい香りが漂う。
ふっくらとしたお米に卵の黄色が映える。
上に黒胡椒らしきものがのっているように見える。
・・・寝込んでいた人に黒胡椒って大丈夫だろうか。
雑炊を口元に近づけられ、僕は恐る恐るそれを口に入れる。
(・・・美味しい。)
ごくっと咀嚼したそれを飲み込む。
一瞬、ぞっとしたが特に何も無く安堵した。
「よく頑張ったね。薬飲もうか」
「・・・それ、器ごと頂戴。食べる」
「え?」
「意外に大丈夫だったから、安心したら余計お腹空いちゃった」
虎牙さんはパッと顔を明るくして、僕に器ごと渡す。
・・・実はベッドの上でご飯食べるのも嫌なんだけど。
僕は黙々と雑炊を口に運び続ける。
そして半分程減ったところで僕は手を止めた。
「・・・虎牙さん、あの時助けてくれてありがとう」
「晴人を守るのが俺の・・・でも、助けれなかった。ごめん。」
「虎牙さんは悪くないよ」
僕は手元に視線を落としたまま、ポツリポツリと言葉を零す。
「・・・龍星は僕の幼馴染なんだけど。
ただの幼馴染じゃなくて・・・僕の家は代々龍星の家に仕えている執事の家系でね。
だから今は『主従』関係にあるんだけど」
「龍星は昔、正義感が強いヒーローみたいな奴で、虐められてた時に助けてくれて・・・初めて出来た友達で、親友だったんだ。それから、もう1人幼馴染が出来て、いっつも3人でずっと傍にいて・・・」
あの頃は楽しかったな。と僕は笑う。
「一生ずっと一緒に入れたらって思った。ずっとこのままだったらいいのにって。・・・そんな時、もう1人の幼馴染の子がこんな僕を好きだって告白してくれてね。嬉しかった。僕もその子が好きだったし、いつも笑顔で太陽みたいに眩しい彼女は僕の憧れでもあったから」
あれが僕の初恋だった。
明るくて真っ直ぐで、あったかくて優しい。
そんな彼女が大好きで、大好きで・・・。
「そんな彼女とずっと一緒にいれるんだって、子供だから難しい事は分からなかったけど、大喜びで約束したよ」
「・・・『彼女』は、今どこに?」
虎牙さんは、ゆっくりと落ち着いた口調で聞く。
「どこにもいない。もう二度と会えないし、僕なんか、彼女に会う資格なんてないんだ」
僕は顔を上げて虎牙さんの視線と向かい合う。
「僕が彼女を殺しちゃったから」
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